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シャープさんさんの作品:テレビとシミ

テレビ見てますか? @SHARP_JP です。テレビの凋落が叫ばれてひさしい。ふだん私たちが「テレビ」と言う時、番組を流すメディアとしてのテレビと、それを映す受像機としてのテレビのどちらかを意味する。どちらの「テレビ」かは、その時に話される文脈から、私たちが言外に汲み取っているのだろう。ただし一般に「テレビ」という語が使われる時、それはテレビ番組やテレビ局といった、前者のテレビを指すことが圧倒的に多いと思う。

 

翻れば後者の受像機としてのテレビは、もはや語られる機会すら失ってしまったとも考えられるわけで、テレビを製造販売する企業で働く私にとって、その凋落こそ、真にやばいのではないかと恐々とした気持ちになる。ためしにツイッターでテレビと検索をかけてみれば、放送としてのテレビはまだまだ語られているが、家電としての「テレビの語られなさ」が如実にわかるだろう。

 

たぶんテレビは、まだまだ見られている。テレビに映る事物については、まだまだみんな興味がある。なんだかんだいってネットの話題の起点がテレビ番組であるケースは多々あるのだ。由々しき問題は、そのテレビが映るテレビがずっと古いままである可能性と、テレビが映るテレビがもはやテレビでない可能性が市場にどっしりと横たわっていることではないか。もちろんここでいう由々しき問題とは、テレビを製造販売する者にとっての由々しき問題である。テレビを見る人にとってはなんの由々しさもない点がまた、問題の由々しさに拍車をかけている。

 

ついこの前も、前者のテレビがいまだ健在なことを実感させられる機会があった。年末のテレビ番組で製品が運良く紹介されたのだ。さまざまな芸人さんがそれぞれが評価した家電をプレゼンする番組である。その中で、衣類の食べこぼしやシミをかんたんに落とすことができる家電を、とある芸人さんが実演と実感をまじえて大いに推してくださった。その番組がテレビで流れたとたん、サイトには膨大な人々が訪れ、購入予約が「殺到」と言っていいほどの数で寄せられたのだ。その反響の大きさに、ふだんネットにいる私は「テレビってやっぱりすごいんだな」という、月並みな感想しか出てこなかった。

 

みんな、テレビ見てるよね。でもそのテレビ、買い替えないよね。たぶんこのあたりが、ここ10年のテレビをめぐる現実だよね。

 

エモニット(田丸はるか 著)

 

身も蓋もない話だけど、テレビで紹介されて大反響だったのが、このマンガのようにパスタを食べて付きがちなシミにうってつけの製品である。たしかに私も事あるごとに、食べこぼしの汚れにいかにこの製品が役立つかを、何度も何度も発信してきた。しかしその発信はさほどの影響も見せずに、毎度虚空に消えていったのだ。爆売れなどという現象は、ついぞ引き起こすことはできなかった。いいかえれば私は、消せたはずのシミを消せないシミにしてきたのかもしれない。罪である。

 

ただしこのマンガを読んで、私にも少し安堵する部分はある。消したくないシミはたしかにあるのだろう。そのシミが幸せな記憶を喚起するシミなら、あえてそのままにしたい、という気持ちはなかなかに尊い。食べこぼした時間や場所をまるごと恋心として反芻できる汚れを抱えた人に、そんなのかんたんに落とせますよとマシンを手ににじりよるのは無粋というものだろう。どうかそのニット、シミごと大切に保管しておいてください。

 

ところで衣服のシミは時間が経てば経つほど落ちにくくなるのはご存知でしょうか。シミはできるだけ早く、可及的速やかに対処するのが肝心です。そこでこの超音波ウォッシャー、手軽に持ち運べるのでバッグの中にも入ります。デート中の食べこぼしも、これさえあればふたりで笑って汚れを落と(ここらでやめておきます)

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