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シャープさんさんの作品:リモートノイズ

おウチからこんにちは、@SHARP_JPです。幸いなことに在宅勤務を選択できる仕事に就いているので、もう長いこと、そうさせてもらっている。在宅勤務ができない仕事の方を思えば、ありがたいと感謝の言葉が口をつきそうになるほど、世間と空気は過酷さを増している。


とはいえまさかこんなに、在宅勤務がどっしりと腰を据えるような働き方が続くとは思わなかった。もともと私が「篭もる」と相性がよかったせいもあるが、たまにはだれかとビールをだらだら飲みたくなること以外は、小さいストレスはあれども、ぼちぼち仕事をこなしている。


こうも長らく在宅勤務を続けると、リモートの打ち合わせにもすっかり慣れた。1年前ならお互いぎこちなさが見え隠れしていたZoomだなんだも、まったく構えることがない。リモートする時の部屋の定位置も決まり、多少は自分の顔がマシに映るような画角や角度もわかった(私の場合は中編小説の単行本2冊でノートパソコンの嵩上げをする)


ただしリモートの打ち合わせについては、さいきん不服なことがある。みんな、背景に合成画像を使い出したからだ。私はモニター越しに、打ち合わせ相手のむこうに映る背景を眺め、その人となりを想像するのが好きだったのだ。誤解がないように言うと、部屋が汚いとか家賃が高そうとか、その人のガサツさや私生活を覗きたいわけではない。後ろの本棚に並ぶ本や大事そうに並べられた小物から、その人がなにをどのように好む人なのかを汲み取る手がかりにしたいのである。


それはおそらく、目の前の人がどのような装いをしているかで、その人がどう思われたいかのサインを受信することに似ている。かつて気兼ねなく人と会っていた頃、着ているTシャツや靴、ファッションのタイプから、その人の価値観に輪郭を描きながらつきあいを深めていた代わりに、私はモニター越しの背景に情報量を欲していたのだろう。ハワイとか、よくわからない森や宇宙の画像を背景にされると、それも叶わなくなる。


テレワーク 九九の声が 漏れ聞こえ(篠崎マーティ 著) 


もちろんリモートの打ち合わせ時に、背景に映るものは仕事の邪魔でしかない。会議を進行するために、なんら必要な情報でもない。むしろ気が散る。だからプライバシーと同時に、非効率なノイズを排除するため、背景を画像で隠すのも無理はないと思う。ただそこには、奥行きのなくなったコミュニケーションしか残らないのもまた事実だ。私はそれを少し寂しく思っている。


リモートの会議中に会話以外の音が入るのも邪魔だろう。文字通りのノイズである。このマンガでは、会議中に別の部屋で子どもが九九の暗算を練習する声が闖入してくる。なんともかわいらしいシーンだ。モニター越しの仕事相手も耐えきれなくなり吹き出してしまう。そして煮詰まりそうだった打ち合わせが、和やかに再起動される。


このマンガを微笑ましく読む私は、リモートのコミュニケーションにノイズを欲しているのだと気付いた。もちろん漂白された環境でサクサク話を進めるのもいいけれど、たまには無駄な情報に溢れた、ノイズの混ざり合うやりとりがしたい。たぶん私が在宅勤務で唯一抱えるストレスは、それなのだろう。


校庭に野良犬が侵入するように、リモートワークにもばんばん犬や猫やお子さんが闖入したらいい。それに遭遇する私たちはイラつくことなんてないはずだ。むしろおどろき、やがてあなたに奥行きが垣間みえてワクワクするはずだ。とか言って私は、校庭に侵入する野良犬なんて見たことがないのだった。私はずっと退屈しているのかもしれない。 

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