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シャープさんさんの作品:選ばれた言葉が私を盛る

読み書きそろばん、 @SHARP_JPです。どちらかというと前ふたつが得意です。なんせ仕事が会社のツイッター係だったりするので、私の日常は圧倒的に「書く」ことに占有される。たとえひとつひとつは短くとも、書いて書いて書きまくるのだ。


だからここ数年の私は、必然的に書くという行為に深く向き合うことになった。昔から本は好きだったので、どちらかというと読む専門だった私が、である。そしていつのまにやら、さまざまなルールやこだわりが、自らの中に林立されることになる。


ただ文字を連ね、伝える。それだけの行為に、なぜルールやこだわりが存在するのか。そこには言うまでもなくテキストを通して、読む人に「それを書いた私がどう思われたいか」という、私の欲望が反映されるからだろう。装いや表情、髪型や声音などと同じように、文章だって外見への、大なり小なりのセルフ演出が入る。目をぱっちり、顎をすっきり、七難を隠す角度。自撮りで盛るように、私たちは文章でも自分を盛る。


一人称、語尾、口調、句読点の位置。テンションや!の数、漢字の開き方にいたるまで、私たちは絶え間なく選択しながら文章を書き上げる。無数にある選択肢から、たったひとつを選ぶのだ。その時、選択されなかった膨大な言葉の数々は、あなたが望まなかったあなた自身の像だし、いまあなたが送信ボタンを押したツイートやLINEは、いまあなたがそうありたいと望む、赤裸々な姿なのだろう。


ましてやスマホとSNSを駆使するわれわれである。いまや絵文字やスタンプまでを手中に、その返信ひとつひとつまで、さらに膨れ上がった選択肢を前に決断を繰り返さなければいけない。ひとたび複数アカウントなんて世界になれば「そう思われたい自分」が幾層にもレイヤーをなすわけで、現代にいたって人類は脳をもう一段進化させる途上なのではと思ったりもする。私たちは書くだけでさえ、つくづく疲れる時代に生きているのかもしれない。


はい!ラッシュ(マエムキ・スズ太郎 著)


そしてこのマンガである。リモートワークも活発になった今日この頃、職場でグループLINEを使う人なら、だれでも経験があるのではないか。自分がどう思われたいかの前に、みんなと同じか違うかを選ばなければいけない局面。そもそも言葉の選択の前に、態度の選択を迫られることは、会社でも学校でも、むかしからある風景だったのかもしれない。


メンバーが異口同音(この場合は!の数にいたるまで)に「はい!」をズラズラぶら下げる様子は、同調圧力と言ったら大げさかもしれないけど、順番が後になればなるほど、妙なプレッシャーが増していく。みんなと違う選択をするという選択に、勇気が必要になるのだ。さらにはリアルタイムに進行するグループLINEである。返事のスピードにも、なんらかの意味が付加されそうで、奮い立たせる勇気の量はさらに必要となるだろう。


その逡巡はまさに、このマンガで描かれている通り。同じじゃないといけないと律する自分と、同じじゃイヤだと暴れる自分。その葛藤が、わずか数文字の返事を書く瞬間に凝縮される。私たちの書く日常は、そんな時間が絶え間なく続く。われわれは選び続け、決断し続けなければいけない。スタンプの選択も間違えちゃいけないぞ。黙って書く間も、私たちの頭と心は、へとへとにいそがしいのだ。

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