つい先日のこと。戯れに買って撮っていた写ルンですを現像に出してみた。できあがった写真はまるで昭和だった。たしかに写っているのは最近の私や、私が目にしたモノや人なのだけど、それは「親の子どもの頃の写真だ」と言われるとすんなりと信じてしまうほど、自分と分離した過去を感じさせたのだ。それほど、いま私たちがスマホでパシャパシャ撮って見る写真とはかけ離れた、ぼんやりとしていて、光量の不足した暗い写真だった。
自分のことなんだけど、目に入ってくる情報があまりに「古さ」を纏っているせいで、時間軸のピントがあわない感じ。それはどこかちがう世界線にいる自分を、残された手がかりからゆっくり把握するような感覚。あるいは自分が過去にタイムスリップしたとして、その記録をあとから眺める体験、といったら伝わるだろうか。
このマンガ、読む前のサムネイルでもわかると思うのだが、絵が水木しげるとか諸星大二郎を感じる。だからページをスクロールするとすぐ、昔、それも自分がまだ生まれていないほど昔の、古いマンガを読んでいるような錯覚に陥る。手にしているのは古書や貸本でもなく、今を象徴するようなスマホだからなおいっそう、自分がいつどこでマンガを読んでいるのかわからなくなる。なんだかふわふわする感覚だ。
しかも物語は、登場する人物たちが「別の世界線にスライドしてしまう」お話である。続いて描かれる別の世界線で起こる事態は、いま現在われわれをとりまく状況に非常に似通っている。風刺かと思うほどに。
この作品がコロナの前に描かれたのか、後に描かれたのか、私にはわからない。けれど、このマンガをスマホで読む体験そのものが、現在と過去を揺らがせるような、あるいは、私がいまいる世界線はひょっとしたら別の世界線なのではないかと疑心暗鬼にさせるような、すぐれた短編だと思う。昔なのに今な、不思議なマンガ。
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