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シャープさんさんの作品:カラオケ怖い

月日は流れゆくことでしょう、 @SHARP_JP です。大人になるといかに光陰矢の如しかを言う解説として、年齢分の1年というヤツがある。10歳が過ごす1年は本人にとって1/10だが、30歳の1年は1/30に過ぎないから、いかに大人の1年が相対的に短いか。そう語られると毎回、たしかにそうだなと思う。

 

とはいえ大人になると用事も仕事も行きがかり上も増える一方だし、入学や卒業といった人生を強制的に区切るイベントも減っていく。だから加齢によって、われわれの1年は自身のコントロール下を離れ、逃れようもなくのっぺりしていくのだろう。頭も身体も疲れきっては寝るを繰り返していれば、ただただ時間は早送りするように過ぎゆく。その速さは、今という時間が自分の人生に占める割合を計算するまでもない。

 

問題は懐かしむ時なのだと思う。年齢分の現在の1年なんて、平板な時間の経過に慣れてしまえば、もはや切れ目なき繰り返しだ。いつも通り。なんてことはない。問題は過去をカジュアルに振り返った時に、5年とか10年の単位がトチ狂ってしまうことではないか。振り返る過去の射程がいつのまにかガバガバになり、そのレンジの有する質量がスッカスカなことに気づいた時、私は月日の経過に愕然としてしまう。

 

いつしか私は、ほとんどの過去が「つい最近」になってしまった。なにかの拍子に会話の中で10年前を語ることになった時、私はつい最近のこととして話をしている。服やスニーカーなどのリバイバルを見かけると、流行が一周したなんてとうてい思えず、もう復活したのかと妙な感慨を抱いてしまう。過去の仕事も現在と地続きな感覚があるから、昔と今の違いより、昔も今も変わらぬところを見つけるのが得意になってしまった。

 

どうやら最近の私は、過去の私に親しみを見出している。どうも私は過去の私と仲がよい。平板な1年を送る人間にとって、それは日々を穏やかに生きるコツかもしれないけれど、もう少しなにかを耕そうと望む者には、あまりよろしくない傾向だと思っている。

 

カラオケ価値観(みりこ 著)

 

それにしても音楽は油断ならない。とりわけ自分が好きだった音楽は危険だ。いともたやすく現在の私を過去に引き込み、一瞬で時間を圧縮し、今も昔も親しみあふれる場所にしてしまう。ためしにみんなもそれぞれ、10年前に好きだった曲を聞いてみればいい。イントロを聞いたとたんにありありと「その当時」が思い出されて、いったい過去とはなにか、よくわからなくなるはずだ。

 

好きな音楽は、振り返って思い出される時に、私たちの時空を歪ませる。過去の尺度を変えてしまって、時間意識をガバガバにしてしまう。しかもそれはあくまで個人的に作用するのだ。だからこのマンガのように、音楽を介して懐かしむ行為に差が生じてしまうのだろう。カラオケは怖いのだ。

 

そして多くの場合、ここに年齢差が加算される。あなたの10年前と私の10年前は、現在から同じだけの距離を持った過去ではない。振り返られるかぎり、時間はそれぞれ別の目盛りを持ってしまう。だから私たちは過去のある時点を同じ景色として見るのは不可能なのだろう。

 

ただし未来はちがう。現在からはじまる1年は、すべての人に平等な長さを持つのだ。少なくとも時間は、未来の平等だけを担保してくれることが、私たちの希望ではないか。過去がすっかり増えてしまった私は、いまそう思っている。

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2023/3/23 コミチ オリジナル
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