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たらればさんの作品:第1部 「伝説の公式NHK_PR」と「現役最強SHARP」

たられば(司会):みなさんこんばんは。本日はようこそおいでくださいました。本日の対談を始める前に、簡単な自己紹介と今回のイベントのアウトラインを10分ほど説明いたします。 えーその前にインフォメーションと、先ほど申し上げました注意事項を申し上げます。 まず本イベントで語られた内容については、それぞれの責任において発信可能です。社内資料にご使用いただいても、SNSでの発信でもご自由にどうぞ。 それと、本イベントの内容は後日、コルクbooksサイト内にてマンガ化、テキスト化される予定です。 浅生鴨:マンガ化って謎ですよね。どうなるんだろう。 SHARP:そうですね(苦笑)。すごく楽しみです。 (マンガ家の皆さんが今回のイベントを漫画化してくれた作品群は下記をご参照ください) https://corkbooks.com/stories/?id=114#explain-list114 たられば:よろしいですね、はい、ではまず登壇者の紹介です。 皆さんから向かって右側、青いパーカーサングラス姿が……、ええと、今日お集りの皆さんは「企業公式アカウント」のご担当者が多いのでご存知だと思います、作家であり、元NHK_PR(1号)ツイッターアカウントご担当者、いわゆる「中の人」でありました浅生鴨さんです。 (会場拍手) たられば:では、ひと言お願いします。 浅生鴨:こんにちは。あのー、『宇宙兄弟』、今日はコルクbooksさんのイベントなので、宇宙っぽいパーカー(ユーロの宇宙飛行士の制服をモチーフにした青いパーカー姿)を着てきました。 (会場笑い) ==== 浅生鴨/作家、映像ディレクター、元NHK_PR1号として第一次ツイッター公式アカウントブームの立役者となる。 『中の人などいない』(新潮社)、『伴走者』(講談社)、『どこでもない場所』(左右社)など著書多数。 https://twitter.com/aso_kamo ==== たられば:気が利くなぁ……。続いてみなさんから向かって左側ですね。客席側にお座りなのが、SHARP公式アカウントのご担当者、中の人です。本日はなんとお呼びすればよろしいのかも含めて、自己紹介をお願いします。 SHARP:あ、えっと、じゃあ今日は「SHARP」でお願いします。あんまり人前には出ないというか……、ツチノコみたみたいって言われます。よろしくお願いします。 ==== SHARP公式アカウント担当者/現役最強の企業公式アカウント。文章力、機転、フォロワー数、いずれも最高峰。コピーライターの賞もいくつか受賞。『シャープさんとタニタくん@』(仁茂田あい著・リブレ出版刊)など。 https://twitter.com/SHARP_JP ==== たられば:そして、えー、わたくし、今回の企画発起人の一人です。「たられば」と申します。普段は商業誌で編集者をしております。 ==== 編集者。犬。だいたいにこにこしている。今回の企画発起人の一人。責任とって司会。 https://twitter.com/tarareba722 ====

なぜNHK_PRさんとSHARPさんなのか

たられば:最初にざっと、本日の趣旨をご説明申し上げます。 わたくし、個人的な関心もあってSNS、ツイッターですね。毎日つぶやいています。 当初は「どうしたら自分の好きな作品を、より多くの人に届けられるか」ということをずっと考えていました。 具体的に言いますと、SNSの発達により、世の中はものすごい情報過多、情報爆発の時代に突入しました。いわゆる「コンテンツの流通量」がものすごい増えたということです。 そういう時代に、どうすれば届けたい人にコンテンツを届けられるか。

  https://www.ieice.org/jpn/books/kaishikiji/2011/201108.pdf  これ(上記図)は有名なグラフですが、『電子通信情報学会誌vol.94,no.8,2011』という学会誌に掲載されたものです(もともとはアメリカの大手市場調査会社IDCが出した数字)。  簡単に説明すると、人類が最古の洞窟壁画を描いてから最近まで、約4万年にわたって流通させてきた情報量の、およそ300万倍の情報が2007年の1年間にこの世界を流通した、ということを示しています。2011年は1921万倍、2020年はその2011年のさらに約20倍の情報量が流れる、と予測されています。  とんでもない量ですよね。まさに「爆発」している。  わたしたち「何かを伝える仕事」に就く人間は、こうした圧倒的で爆発的なコンテンツの濁流の中から、読者や視聴者に「わたしたちが作った何か」を見つけてもらう必要があるわけです。  こうした時代に、どうすれば届けるべき人に届けるべきコンテンツを届けられるようになるのか。  試行錯誤していたわたしが出会ったのが、こちらの書籍です。 『中の人などいない』(新潮社刊・NHK_PR著) https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00C186H60  ここにいらっしゃる、浅生鴨さんがお書きになられた書籍です。現在も、これはTwitterに限らずSNS全般の、それも企業公式アカウントに限らず個人アカウントにとっても、ある種の「ふるまい」にまつわる最適解だと思っています。すばらしい内容ですね。  初版は2012年なんですが、ここには「【企業とお客様】という関係から【友達どうし】のような関係になりたい」と書いてあります。  つまり、フォロワーと友達になろう、と。  情報を発信する側、受信する側から、友達同士になる。  どれだけ流通情報量が増えたからといって……、いや、世の中に流通する情報が増えれば増えるほど、「友達の言っていること」、いわゆる口コミの力が強くなっていくことは、皆さんも日々実感しているのではないでしょうか。  お客さんや視聴者、ユーザーにとって、「世の中ごと」と「自分ごと」の中間にある「仲間ごと」になろうと、2012年の時点で提案しているわけです。  そして、現時点で、これは私見ですが、いまTwitterの現役アカウントの中で、この「仲間ごととしての公式アカウント」を一番成功させているのが、今日ここに来ていただいたSHARP公式アカウントの担当者だと思っています。 https://twitter.com/comicdays_team/status/989325701668065281  上記は2018年4月の記事(レポート)なのですが、見事にこの感覚、「フォロワーとの関係構築」について的確に語っています。  このなかのこのセリフ、すごく興味深いですよね。 「フォロワーの孤独に寄り添いたい」。  先程ご紹介した浅生さんがやっていたNHKといえば、公共放送です。かたやSHARPといえば大手民間企業であり、これは言っていいのか、この「中の人」、シャープさんは長く広告宣伝セクションで広告費を使って企業プロモーション、製品プロモーションを手掛けてきた方です。  いわば両極端にあるような存在のはずが、「中の人」は非常に似たことを言っている。  だからこそ、今日このイベントをセットしたわけです。  さて、やっと本題です。長くなって申し訳ありません。  本日は元NHK_PRの中の人である浅生鴨さんと、SHARP公式の中の人においでいただきまして、 ・お二人の考える、SNSにおけるプロモーションの可能性 ・どうすればフォロワーと良好な関係が築けるのか ・お二人が具体的にとった方法 ・気を付けたほうがいい点、苦労した点 ・今から始めるとしたらまず何をするか ・この先の見通し(SNSを使ったプロモーションはどうなってゆくのか)  などなどを伺えればと思います。

性格を考えて、内線電話帳から消える

たられば:「Twitterアカウントの担当者に任命されて、まず何をしましたか?」。浅生さんからお願いします 浅生鴨:一番最初にやったのは、アカウント名を考えたことです。どんな名前がいいかな、と考えて、そのあと「初めましてツイート」をやったりしたんですけど、そのあとに「性格設定」をしました。 たられば:性格設定、ですか。 浅生鴨:ちょっと話が前後するんですけども、僕がツイッターを始めたときは、NHKには黙って勝手にちょこちょこやってたんですね。で、すぐバレて、怒られて、「公式になれ」って言われて。で、公式になって「公式だしちゃんとアイコン作ろうかな」と思ってアイコンを考えてって流れです。ですから「任命された」っていうか、最初の最初は勝手に始めただけです。「勝手に始めた」って人(客席に向いて)この中にいます? (何人か手が上がる) 浅生鴨:あ、いるんだ。 たられば:続いてSHARPさんは最初、何をされましたか? SHARP:僕はもうちょい遅いんですけど、アカウントを開設したのが…。 たられば:あ、そうだ浅生さんはNHK_PRのアカウント開設は何年ですか? 浅生鴨:2009年(11月)かな。 SHARP:僕が始めたとき(2011年5月)は、企業がSNSをやるっていうのが一種のブームだったところもあったんで、「広告の延長でやれ」って言われたのが正直なところです。それでまあ始めるときに結構考えて、「よし、一回(社内)電話帳から消えよう」と思って。 たられば:「電話帳から消える」ってどういうことですか? SHARP:社内電話の電話帳があるじゃないですか。内線表っていうのかな。そこから僕の名前を消してくれ、誰からも問い合わせがこないようにしてくれ、っていうことです。 たられば:な、なるほど。 SHARP:そしたら「名前はあかんけど内線番号だけだったら消したってもええよ」って言われて。それで会社の人が僕にコンタクトをとりにくくしました。なんでかっていうと、ツイッターを始めるにあたって、まずお客さんとの距離を詰めなきゃいけないから。僕はまず、「会社からはみ出なあかん、そのためにはまず名簿から削除してもらって、そのぶんお客さんとの距離が縮まるし、しかも半歩出てるから会社のことを外から見れるし…」って、なんというか、「社員を半分辞めた立ち位置でやいやい言っていこう」と思ったんです。まあ決意表明みたいなかたちでしたね。

「役に立たない」、「敷居を下げる」

たられば:あの、浅生さんが先ほどおっしゃった「性格を決める」ということを、もう少し詳しくお聞かせください。「性格を決める」というのは具体的にどういうことですか? 浅生鴨:僕は自分自身としてツイートをする気はなくて、「仮想人格」というか、「NHK」という存在自体のキャラクターを作りたいと思いました。多少つぶやきを始めてみて、「これはちゃんと設計したほうがいいな」って感じたので。 たられば:設計、なるほど。えーと、プロフィールはどう書きましたか? SHARP:ツイッターのプロフィール欄ですか。僕は一回、先行してる企業アカウントのものを見て、それにプラスちょっと関係ないことも言いますよって加えてプロフィール欄にしてますね。今もそこから変えてないです。 たられば:一度作ったらいじらない、動かさないと。 SHARP:あんまり必要に迫られることはないんで。 たられば:浅生さんは? 浅生鴨:始めた当初は「非公式です」って書いて、「まぁ番組の宣伝とかは、あんまりやんないよ」みたいな。公式になってからは「公式です」ってことを書いたんですが、それでも「お客さんとのコミュニケーションをメインにしているアカウントです」っていうことがわかるようにしていました。ただ、NHK全体がいろんなSNSを使うようになって、そのなかでポリシーが決まっていくので、最初の自分で作ったバイオグラフィと最終的なもの(現在のもの)は、だいぶ変わってますよね。 たられば:そのなかでも大事だったなと思うことはありますか? 浅生鴨:「役に立つアカウントではない」ということは一所懸命伝えようとしてましたね。 SHARP:(コミュニケーションの)敷居を下げる、ということですね。 たられば:具体的だなぁ…。

1日1ツイート以上、30ツイート以下

たられば:どんどんいきます。続いて、ツイートの内容と頻度はどのようなものが中心でしたか? 浅生鴨:これは一日のツイート量のマックスをがっちり決めてました。 たられば:どれくらいですか 浅生鴨:「30」ですね。24時間で30ツイート。 たられば:1日に必ず、って考えるとちょっと多い量ですね。 浅生鴨:NHKってある意味ツイートしやすくて。というのも、時間ごとに番組があるんですよ。「このあと3時からこんな番組です」っていうアナウンスがいつでもできる。そういうきっかけのあとに、どうでもいいことをちらっと書いたりっていうことができる。そこがすごいやりやすかったっていうのはあります。 たられば:なるほど。 浅生鴨:でも30ツイートを超えると、やっぱりフォロー数の少ない人のタイムラインを埋めちゃうんですよね。なので、24時間で30ツイートをマックスにして、その代わりリプライのやり取りは無制限にしていました。 たられば:それは、じゃあ「あ、今日は少ないな」という日は、疲れていたり二日酔いの日だったっていうことですか。 浅生鴨:基本的に、前日にもう時間設定しちゃってました。だいたい帰る(退社)前に翌日のツイートを全部セッティングしてから帰るっていう。だからほとんどリアルタイムでやってないんですよ。 SHARP:ゼロツイートの日は容認していましたか? 浅生鴨:いえ、必ずなにか一個はツイートするようにしていました。 SHARP:1以上30以下ですね。 浅生鴨:「継続」ってすごい大事だと思っていたんで。 たられば:SHARPさんどうですか? SHARP:毎日必ずやるっていうのは、僕もそうですね。僕そのマックスの回数は決めてないですけど、「連投しない」というのは初めから決めていました。 たられば:それはなぜですか? SHARP:ひと言でいうと「ウザいな」と思われたくない、ということです。SNSをずっとやっていると、ギャーギャーギャーギャー呟きたくなる時ってあるじゃないですか。 たられば:あります(苦笑)。そういうところが楽しかったりもします。 SHARP:でも企業アカウントって(自分自身とは)あくまで別人格なので、自分のツイートではないんですよ。「何をつぶやくかなぁ…」って考えるので、自分自身とはダイレクトには直結していない。だから基本的に「これを呟きたい!」とはならないですね。 たられば:でも「これとこれを伝えなきゃ」って話にならないんですか? SHARP:当時ツイッターを使ったプロモーションの流行りがあって、要するに「いかに読み手のスマホ画面を自社のツイートで埋めるかが、広告が成功する鍵だ」、って教わったんですね。 たられば:あー、なんだか少し前の広告屋さんが考えそうなことですね…。 SHARP:僕、「たぶんそうじゃないやろなぁ」と思って。「スマホ画面を埋めたらそれは嫌悪感が埋まっていくということで、逆にフォローを外される」と思ったんです。だから僕は、仮に連投したい気持ちが起こっても4分は空けますね。 たられば:またしても具体的。 SHARP:あとはもう、僕もツイートの7割くらいはリプライの返信とか、フォロワーの人との会話なので、たくさんツイートするのもあんまり意味がない。 たられば:ツイートの7割がリプライなんですか。 SHARP:(フォロワーと)どこまでコミュニケーションを測るかのほうが(「何を伝えるか」よりも)重要だと思うので。 たられば:リプライの内容は、具体的にはどういう感じなんですか? SHARP:一対一のおしゃべりです。「(SHARP製品を)買いましたー!」と言っていただいたツイートに対して「ありがとうございました」って言ったり、「なにを買ったらいいですか」っていう買い物相談に答えたり。あとはコールセンター的なやり取りですね。「使い方がわかんない」みたいなリプライにも、答えられるものには答えています。

「これ呟いて」をそのまま呟かない

たられば:続いて、番組や商品の紹介、公式リリースの発表等で気をつけていたこと、心がけていたことなどはありますか? 浅生鴨:「これを呟いて」って言われたときに、それをそのまま流すことはやらないと決めていました。個人的な好き嫌いとか、個人的なように見える好き嫌いとかを足してツイートしていました。 たられば:その「個人的な好き嫌い」と「個人的なように見える好き嫌い」ってどう違うんでしょうか。 浅生鴨:僕個人の好き嫌いとは別にして、「個人的な思考のように見えるもの」をわざと入れるんです。「NHK_PR」というキャラクターの性格を作るためですね。 たられば:すみません、そこもう少し詳しく教えてください。 浅生鴨:わかりやすくいうと、「NHK_PR」っていうキャラクターは、日テレでジブリのアニメが放送されると必ずそこに絡んでいくんです。 たられば:『天空の城ラピュタ』とか『となりのトトロ』ですか。いわゆる金曜ロードショー。 浅生鴨:ええ。でも僕、ジブリアニメはほとんど見たことないんですよ たられば:はい? 浅生鴨:あくまでタイムラインを見て、どういうアニメか、NHK_PRなら何を呟けばいいか考える。でも僕自身はジブリアニメって『もののけ姫』と『千と千尋の神隠し』しか見たことがないんです。 たられば:別人格だというのが徹底しているなぁ…。 浅生鴨:判断するのに優先するのはNHK_PRの好み、僕の体温だけは残していきますが、たとえば僕はまったくジブリアニメには興味ないんですけど、「ジブリアニメに夢中な人」に見えるっていう、そういう好き嫌いを作っていました。

会社の都合よりも読み手への配慮

たられば:シャープさんはどうでしょう。 SHARP:僕もそういうところ、すごくよくわかります。いま鴨さんがおっしゃったことを別の角度でいうと、「会社からこれを伝えてくれって言われたときに、言うタイミングと言い方は、会社の都合は極力排除する」ってことを意識しています。 たられば:言うタイミングと言い方ですか。 SHARP:たとえば、「エアコンが何月何日に新発売されます」という情報があったとして、会社としては「この日に発売!」というのが一番大事でしょうけども、普通の人、お客さんにとっては、おそらくエアコンの発売に一番意味があるのは今年一番寒くなった日とかじゃないですか。あとは夏日になった日とか。 たられば:まあ「欲しい」ってなるタイミングがありますよね。 SHARP:だから、発売日ではなく暑い日や寒い日に呟くんです。そういう「世間の関心ごと」として、タイムスケジュールっていうのを企業の都合に合わせたくないという。 たられば:お客さんの都合を優先するということですね。 SHARP:はい。どっちか選べるなら、世間のほうに完全に合わせるっていうのはやってます。 浅生鴨:あと、僕がやっていたのは、すでに番宣(番組宣伝)、広告がいっぱいやっている番組は、もうあんまり伝わらないというか、ツイッターで宣伝しても仕方ないなと思ってました。それよりは、無名な……まだ誰も知らないような「魚vs.釣り名人」みたいな、「え、そんな番組あるの」みたいなのを主に取り上げるようにしていました。 たられば:「魚vs.釣り名人」。ちょっと見たい。 浅生鴨:だって、もう大河ドラマとか呟いても意味ないじゃないですか。もちろん触らないと怒られるから触るんですけども。 たられば:「そういえば今日、大河の日ですね」みたいな。 浅生鴨:好きな人は見ますから、きちっと予定は抑える、という感じですね。それに「大河に夢中なキャラクター」として書いてはいました。でもまぁそれは愛社精神というか。どちらかというと、あんまりみんなが知らないようなものを掘り起こしていくってことを熱心にやっていました。 →第2部へ続く

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