

沈思黙考、@SHARP_JPです。自慢じゃないが、いやむしろふだん他所さまへ「あれを買え」「これに買い換えろ」と宣伝する身としては非常に恥ずかしいことだが、私は買い物が遅い。いま乗っている自転車を買うのに3年かかったし、ちょっといいメガネが欲しいなと思って2年が過ぎた。いまも曇ったメガネをかけてこれを書いている。
ケチとか優柔不断と言われればそれまでなのだけど、内実はちょっとちがう。買うのが面倒くさくなるのだ。検索したり比較したりするうちにだんだんしんどくなって検討を放置、しばしのインターバルを挟みまた検討をはじめるも面倒くさのループにはまる。そうして数年経過が、私のアナザースカイ。いっそ壊れてくれと何度思ったことか。
たしか人間の消費行動の実験で、スーパーマーケットのジャムの棚にジャムの種類を増やすと、売り上げがアップするどころか逆に減ったというものがあったけど、私の買い物はまさにそれである。人は選択肢が増えると買う気になるのではない。疲れてしまうのだ。試しに「大型 冷蔵庫」と検索してみればいい。「おしゃれ」や「おすすめ」といくらワードを追加して絞り込もうとしたって、芋づる式に冷蔵庫はあなたの前に現れるはずだ。
とにかく私たちは先立つものがないくせに、選択肢だけは多い。何を買うにも膨大な選択肢が立ちはだかる。むしろ「これ一択」という出会いがあった人は幸せだとさえ思えるほどに。もちろん選択肢を生む側だって、あなたに「これ一択」と思ってほしくてモノを作り、宣伝している。しかしそんな幸せな出会いはいまや驚くほど困難だ。
「買いたいときが買い替えどき」とは、とある家電芸人さんの名言だろう。私もそう思うし、みんなもそう思って買い物に踏み出してほしいと願いながら仕事をしている。しかし買いたくなっても、道は半ばなのだ。どれを買うかの膨大な選択肢をかいくぐり、あなたが私の勤める会社が作ったモノを買う。それはもはや奇跡と呼んでもいいと、自分の遅い買い物を振り返るたびに、私は頭がクラクラしてくるのである。
わたしがもっと価値を高める〜iPad mini6買ったよ漫画(いしいまき 著)
漫画家さんがiPad miniを買った話。長らく購入をためらったものの、それは「自分にとってほんとうに必要かどうか」という二元論の迷いであるから、私にはずいぶんと平穏な買い物プロセスに思える。
ましてや「モノの価値は買った時がピークではない」と語られるのだ。モノを使う人がさらに使うことによってモノの価値を見出す関係こそ、モノと人の理想的な関係のひとつだろう。どうぞお幸せにとしか、私には言えない。
人がモノを買う過程において、私はあまりに無力だ。あなたが膨大な選択肢に嫌気がさすことなく検討を続け、精も根も尽き果てる直前のあなたの2択や3択に、そっと背中を押すくらいが私の仕事の関の山だろう。それはもはや、祈りに近いと思うのである。
クリスマス。歳末。初売り。街もネットもお買い物の季節。私はあなたに向かって祈りを捧げることにする。

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