この連載では、『宇宙兄弟』や『ドラゴン桜』などの編集者であるコルク代表・佐渡島庸平が、『コミチ』に投稿しているマンガ家の中から気になる存在を毎回紹介します。
絵の力だけで作品の世界に魅了される
今回は、新ジャンル「大人の絵本マンガ」を切り拓く、したら領さんを紹介。
まずは、したらさんの作品『眠れないオオカミ』をみてもらいたい。
いかがだろうか。まず、絵に強く魅せられ、「読んでみようか」という気持ちにならないだろうか。
綺麗な世界描写、主人公のオオカミや目が一つしかないハチなど、寓話的で個性的なキャラクターたちに引き込まれる。
絵の力だけで作品の世界に浸りたいと思わせることができるマンガ家は稀有だ。したらさんの絵にはその力がある。
では魅力的な絵とは何だろうか。
マンガでは、見たものを観察し、正確に写実することはもちろん重要だが、それよりも見たものをどう自分なりに「簡略化」するかが重要だ。
「簡略化」にこそ作家の個性が宿り、そこにみる人は魅力を感じる。例えば、似顔絵がうまい人というのは、写真のような本物そっくりの絵を描く人ではなく、その人の特徴を炙り出して、それを上手く「簡略化」して絵に起こせる人だ。
また、『眠れないオオカミ』は、絵と物語の「画数」にズレがない。
どういうことか。100万円の高級ワインを紙コップで提供されたらどうだろう。
高級ワインが紙コップに阻害されてワインを楽しむどころではなくなる。
しかし、マンガではこれが起きている場合がある。例えば、したらさんの絵のタッチで、銀行員が融資や権力闘争に奮闘する物語を描いてみたらどうだろう。したらさんの寓話感のある絵の雰囲気に、あまりにも現実的な物語がミスマッチを起こし、読みにくくなる。
『眠れないオオカミ』は、絵の雰囲気に“なぜか、眠れず地面から動けなくなっている”という寓話感のある設定で「画数」を絶妙に合わせている。だからこそ、作品の世界に没入できる。
SNSが普及した今だからこその可能性に期待
これまでマンガは、マンガ雑誌に掲載できるようなタイプのマンガでない限り、デビューすることは難しかった。
しかし、SNSが普及した今、これまでのマンガ雑誌にはなかったジャンルの「大人の絵本マンガ」を描く人もSNSで作品を発表し、それによってファンと直接つながり、マンガ家としてデビューができる時代になった。
作家が描きたいものを描いて、成功することが可能になっている。したらさんはその開拓者だ。
したらさんが、今後、「大人の絵本マンガ」というマンガの新しい可能性を切り拓くことを僕は楽しみにしている。
最後に、
このインタビューは、2月に行ったのだけど、3月にTwitterがバズりにバズって、したらさんのフォロワーは十万を超えた。おめでとう。
▼したら領さんのマンガはコチラ
<編集協力:平井 海太郎>
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