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コミチさんの作品:ヒット連発のフーモアのスタッフは「今のウェブトゥーンが好き」な人たち~1話制作には7工程7週間 #漫画家 #編集者 フーモア:後編

 フーモアのスタジオ制作によるウェブトゥーンが絶好調だ。LINEマンガでは『喧嘩リベンジ 二度目の最強高校生』『魔王アプリでS級ハンターになれました』『異世界陰陽師と十二天将の式神』が男性ランキング1位、『2周目冒険者は隠しクラス〈重力使い〉で最強を目指す』『当て馬モブ令嬢が必死に瞬殺回避したら、気づけば全キャラ攻略してました!?』が総合ランキング1位、ピッコマでは『暴食のベルセルク~俺だけレベルという概念を突破して最強~』が青年カテゴリランキング1位(いずれも新連載時のタイミング)。

 同社の芝辻幹也代表、井本洋平ウェブトゥーン事業部長、アートディレクターの遠藤拓己氏に集団制作のコミュニケーション上の注意や、現在のウェブトゥーン制作に向いている人、求める人材について訊いた。

前編: フーモア大勝利の理由は「アートディレクター」にあり!? ランキング上位連発を可能にした制作体制とは~ヒット作品のリバースエンジニアリング

■複数ラインの良さを活かして助け合い、作家に合わせてコミュニケーションの仕方を調整する

フーモア社ウェブトゥーン制作の流れ(青枠の運用フェーズが7週間の工程)

――フーモアではどういうスケジューリングで週刊連載を成立させているのでしょうか。

 

井本  1話分の作業で説明しますと、7工程(原作・脚本→ネーム→線画背景→→線画人物→着色下塗り→着色本塗り→仕上げ)に分け、ひとつの工程の作業に1週間かけています。つまり7週間で1話が完成します。それを1週ずつズラして作業をスライドさせ、滞りなく前工程と後工程をつないで進行管理するのがディレクターの仕事です。

 

遠藤  そして各工程の絵としてのクオリティをチェックして担保するのがアートディレクターの仕事ですね。

 

井本  だから、ある話数の仕上げが終わるころには原作・脚本を担当している作家さんはその7話先の作業をしているということですね。

 

――とはいえ分業だと前工程が詰まるとどうしても後工程の人にスケジュールの皺寄せがいきがちになりますよね。そこはどうしていますか。

 

井本  仕上げ作家さんに負荷が貯まりやすいのはたしかです。ただ、複数ラインでストックが最低5話分はある状態で作っていると、たまに手が空く人も出ますので、間に合わなさそうなときはヘルプを付けることでリカバリできる体制になっているのが弊社のいいところです。いざとなれば別事業部のゲームイラストやマンガのチームもありますから、補い合える。

 

途中でメインの線画作家さんが変更になってもうまく回っていますので、奇跡だなと。アートディレクターががんばって主人公の顔のすべての角度の資料を作ることで、ほかの方が担当することになっても読者の違和感を最小限にしながら連載を続けられています。

 

株式会社フーモア ディレクター 井本洋平氏

 

――多人数が関わる中でのコミュニケーションのルール、マナーはありますか。

 

井本  どのスタジオでもそうだと思いますが、制作していると大小さまざまなトラブルがほぼ毎日何かしら起こります(苦笑)。でもうちは「ルール」は意外と少ないかもしれないですね。僕が個人的に意識しているのは、そのパートでスキルが足りない場合、背景作家でパースが取れないとか人物線画で線の強弱がわからないといったことが生じたときに「きちんと本人にお話すること」です。

 

言いづらいとか面倒くさくなって黙ってフェードアウトして別の人にお願いする、みたいなことをするディレクターもいると伝え聞くのですが、今の日本にはウェブトゥーン制作の経験者自体が少ないですから、目下できていなくても当たり前なのであって、アカを入れても応えて続けてくれる人を見つけてやっていくことが大事だろう、と。どこまで付き合えるかを見極めるためにも、きっちり伝えています。

 

遠藤  「コミュニケーションがあるほうがストレス」「ほかの工程の作家とは直接話がしないほうがいい」という方もいますので、僕はなるべく各作家さんにコミュニケーションのやり方を合わせるようにしています。

 

たとえば、チームのほかの工程の方とお互い連携が取れた方がいいとか「チーム一丸になって」が理想なのかなと思われるかもしれませんが、お互い面識ができてしまったことによって、前の工程の人に「ここのクオリティが足りてないので直してください」と言えなくなって自分で直して手がかかってしまった、みたいなケースもあります。そこはディレクターやアートディレクターが交通整理をして、みなさんがやりやすいようにしています。

 

井本  そうですね。作品、作家によりけりですね。僕はディレクターが最終的な意思決定をすべきだし、前工程の担当者は後工程の担当者を信頼して任せるべきだという考えなのですが、作品によってはネーム作家さんに明確に完成像があり、たとえば背景に対する合格ラインが僕と認識がズレるなどして揉めたこともあります。

 

そのときは自らディレクターを交替し、今はその作品はネーム作家さん中心の体制でうまく回っています。ようはその作品ごとに、週刊連載のスケジュールのなかで最大限のクオリティを達成できる体制を作れればいいので、「うちの会社は絶対にこのスタイルです」というやり方はしていません。

 

遠藤  言っていることはみんなそれぞれの視点からすれば正しいんですよね。だから衝突してじっくり話し、お互い納得することも時には必要だと思います。

 

井本  僕と遠藤も前はよくケンカしていましたからね(笑)。ここ1年くらいはしていないですけど。個人的な感覚では、1チーム7、8人で分業の流れ作業で週刊連載となると「なんでもわかり合っている」までいかずとも、ディレクターや他のメンバーを一定程度信用してもらえればいいのかなと思っています。

 

 そのためには、僕の経験では、ディレクターの担当本数は3~4本が限界です。すべてのデータがディレクターをハブにして仲介されますから、無理に4本以上になると処理能力がパンクしてしまう場合が出てくるんですよね。

 

そうなると「データをもらったディレクターがすぐチェックをし、問題なければ次の工程の作家さんに渡す」が不可能になってチェックがザルになり、後工程の作家さんから「これ、おかしくないですか?」と突っ込まれる事案が多発し、チームに不信感が醸成されて制作ハードルが上がってしまいます。

 

逆に余裕があればディレクターは先回りして「手、足りてますか?」「もしかして何かトラブってますか?」と察してケアでき、信頼関係が維持できる。ディレクター、アートディレクター含め、破綻しない作業量で分業することが、お互いの信頼関係の前提になります。

フーモア社は、Twitterやnoteでの発信にも積極的

 

■「今のウェブトゥーン」が好きで向上心がある人なら向いている

 

――フーモアではウェブトゥーン事業の立ち上げから落ち着くまでの間にメンバーの出入りがけっこうあったそうですが、どういう人がウェブトゥーン向きだったと感じていますか。

 

井本  立ち上げには新規事業に向いている「ビジネスが好きな人」が必要ですが、そこから連載を回す制作のラインを構築していく課程では、素直にウェブトゥーンを楽しめる人が必要でした。何も指示しなくても自然とウェブトゥーンを読んでいるような人ですね。そうでないと、制作を続けていくための情熱が保てないんです。今のメンバーはみんなウェブトゥーンが好きな人がやっています。

 

――ディレクター、アートディレクターはどういう人が向いていますか。採って良かったタイプ、でもかまいませんが。

 

井本  ディレクターに関して言うと、うちはいわゆる「マンガの編集者」ではなく「ウェブトゥーンのディレクター職」ですから、今のウェブトゥーンが好きでやる気が二重丸なら未経験でも今のところまったく大丈夫ですね。

 

逆にゴリゴリのマンガ編集経験者は採用では避けています。個人差はもちろんあることは前提ですが、ヨコ読みマンガのセオリーを忘れてもらうことが必要になりますし、「今のウェブトゥーン、面白くないよね」みたいな会話をして周囲のモチベを下げるリスクが大きいためです。

 

遠藤  アートディレクターの採用基準に関して言うと、対応できる絵柄の広さが重要ですね。弊社は現在アートディレクターが企画の初動に関わって作る作品が多いのですが、弊社では「このジャンルしかやらない」「この絵柄しかやらない」という受注のスタイルではないのと、アートディレクターという職種に求められる能力を考えると「線画だけ強い」「アニメっぽい着色だけ強い」という方よりも、ある程度オールマイティに動ける・描ける人が向いています。

 

株式会社フーモア アートディレクター 遠藤拓己氏

 

――アートディレクターは、求められるスペックがかなり高そうですね。

 

井本  ゲームイラストの制作スタジオで活躍していたアートディレクターであればだいたいみなさん活躍されています。遠藤もゲーム出身です。ただゲームは1枚30~40万円の絵のクオリティが求められる世界ですが、ウェブトゥーンは週刊で1話70コマのクオリティアップをするという世界ですので、勘所は変わります。

 

――それ以外の工程の方で「こういう人が今ほしい」という基準はありますか。

 

井本  本当にいろんな仕事があるので、気軽にまず相談してもらえればありがたいですね。たとえば下塗りの工程であれば作画の力がなくてもできますし、それぞれの方が得意なところに注力してもらえれば良いですから。

 

制作はほぼリモートで、地方在住の方、昼間は小さいお子さんの面倒を見ていて夜に仕事をしている女性もたくさんいます。フーモアは9割がた男性向けのウェブトゥーンを作っていますが、作家さんは7割くらいが女性です。

 

遠藤  ウェブトゥーンが好きでやる気と学ぶ姿勢があれば大丈夫です。弊社のアートディレクターが作った制作マニュアルもありますし、トレンドを教えて共有することはできますから。

 

井本  ただ、ウェブトゥーンは1本制作し始めると1年くらい描き溜めることになり、トータルで制作費が2000~3000万円かかりますので、全行程の中でも特に重要なメインの線画作家さんに関しては、トライアルを念入りにお願いしてから採用を決めています。

 

現状、弊社の線画作家の出自はマンガ家とイラストレーターが半々くらいです。マンガ家さんは週刊連載の大変さを知っていて作画コストのメリハリを付けてくれるのとペンの速さが強み、イラストレーターさんは絵のトレンドを汲んで対応できることが強みですね。

 

■ランキング上位作品が複数出たことで、今後も続けられる見込みは立っている

 

――金銭的には報われていますか。またはその見込みはありますか。

 

井本  会社としてのことをお話すると、最近では各配信ストアのランキングの新連載の初動で1位が取れた作品が5本くらい出ましたが、そうなると事業部として月間のレベシェア売上の金額感について解像度が上がってきました。今後も継続的にやり続けられる見込みが十分立っています。

 

作品を仕込んでいる最中は、どうしても投資になるため長期的な戦略が必要だと思っています。現在15本近くの作品を連載にむけて制作しているので、リリースが待ち遠しいです。

 

 作家さん個人としてどうかと言うと、それぞれの工程の方に関してもnoteやTwitterでお支払いの条件を公開していますが、たとえばヨコマンガを制作した場合、単行本の印税はだいたい10%ですよね。うちの場合、線画作家さんは1話12万円の原稿料+印税2%です。週刊連載ですから月50万円弱にプラスして印税が3か月ごとにだいたい数十万円入ります(印税分はもちろん、作品の売上によって変動します)。

 

印税が「少ない」と思われる方もいるかもしれませんが、ヨコマンガではマンガ家さんがご自身でやっていらっしゃる背景その他の作業を担当されるスタッフ(アシスタント)の採用やマネジメント、作業指示、そして支払いをすべてフーモアが引き受けているかたちになりますので、「フーモア、ぼりすぎ」と言われたことはありません。手前味噌で恐縮ですが、悪くない条件なのではと思っています。

 

遠藤  お金の満足もありますが、みなさん「ひとりでは絶対作れない凄い作品に関われてよかった」とおっしゃいます。創作者としては、そこも大事なポイントだと思います。

 

――今後目指すフーモアらしい作品はどういうものでしょうか。

 

芝辻  原作に合ったチームを作り、その時点ででできる最高を追求することですね。そういう風土の会社であり、そこが弊社の強みだと思います。

株式会社フーモア 代表取締役兼ディレクター 芝辻幹也氏

 

井本  昨年から今年にかけてできた制作スタジオの作品が今年、来年にかけて世に出ていきます。しかし結果が出ずに撤退する会社が複数出て、日本産ウェブトゥーンについていったん盛り下がるタイミングが来ると思います。フーモアではしっかりとヒットの再現性を作って、世の中に作品を展開し続けるスタジオとして頑張っていきたいです。

 

各ストアでのランキング1位は幸いにして取れていますが、さらにヒットを大きくしていくにはやはりアニメ化してそこからお客さんが流入してくることが大事になってきます。ピッコマで連載している暴食のベルセルクという作品はアニメが決定しており、展開しているノベル、マンガ、ウェブトゥーンにどういう動きがみえるのか楽しみにしています。ほかにも映像に絡めた動きなど色々あるので、今年発表できれば嬉しいです。楽しみにしていてください!

(後編ー完)

前編: フーモア大勝利の理由は「アートディレクター」にあり!? ランキング上位連発を可能にした制作体制とは~ヒット作品のリバースエンジニアリング

---プロフィール

芝辻幹也

株式会社フーモア 代表取締役CEO。東京工業大学・同大学院卒業後、2009 年アクセンチュア入社。大規模システムの PMO、大手小売業の BPRのプロジェクトに参画。その後、ルームシェアメンバーとシェアコトを創業しグルーポン系サイトを立ち上げる。

同事業譲渡後、トライバルメディアハウスに入社しソーシャルメディアマーケティングを学ぶ。2011 年 11 月株式会社フーモアを創業し同社代表に就任。

趣味は理論物理学 ( 最近は専ら超紐理論 ) イラスト・漫画作画。密かに漫画家を目指している。

 

井本洋平

長野県出身。1983年9月14日。 2016年フーモアのマンガ事業部のクリエイティブマネージャーとして入社、マンガ事業部を立ち上げる。

エンジニア・マーケターとしての経験を元に事業立ち上げを牽引し、 その後もゲームイラスト制作も含めたクリエイティブ部門のマネジメントなどを歴任。

2021年に執行役員に就任。現在はwebtoon事業部の部長を務める。

 

遠藤拓己

宮崎県出身。1995年2月26日。2012年、大学進学と同時に上京し、インターンとしてフーモアに入社。

ゲームイラスト事業部のディレクターを経て、アプリ事業の副部長として就任、アプリのイラスト制作と悪役令嬢系タイトルのシナリオディレクションを務める。

現在は、webtoon事業部のアートディレクターチームのリーダーへ就任。

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2023/3/22 コミチ オリジナル