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シャープさんさんの作品:第286話

ぐったりしてます、 @SHARP_JP です。祭りが終わった。なんの祭りかというと、世紀のお祭りとか人類の夢の舞台とか四年に一度のスポーツの祭典とか言われる催しのことである。今年は日本から昼夜逆転するほど遠い場所で開催されていたので、テレビのニュースなんかだと「寝不足の夜を連日お過ごしかと思います」と決めつけられがちな2週間あまりだった。どちらかというと私の寝不足は、夏の夜の暑さのせいだったと思う。

 

なんでこんな回りくどい言い方をしているかというと、それは私の癖である。癖というより、私と同じく宣伝や広告に関わる者特有の職業病と称した方がいいかもしれない。あらゆる広告関係者はあのスポーツの祭典中、その祭典の呼称を企業の名の下に、決して口にしてはならないのである。

 

いつも4年に1度の(前回の開催からそのペースが崩れたわけだが)祭典開幕を目前にするころ、私の仕事アドレスには社内外の関係各所から警告がやってくる。要約するとこうである。

 

世界中の大半の人がおそらく熱狂し、その祭典の名を口にする期間がまもなくはじまる。しかし企業の場合はその祭典のスポンサーでない限り、世界中の人々と同じように、無邪気にその名を口にすることは禁止されておる。あらゆる広告物に、その祭典の名やその祭典のイメージを喚起する絵を使用した場合、怒られるでは済まないほど怒られるのでくれぐれも注意するように。とくにそこのお前、ほいほいツイートするお前はとくに、うっかりその名を打ち込まないよう、厳重に気をつけろ。わかったか。

 

というような、長らく仕事を続ける私にとっては、なかば風物詩のような圧である。もちろん怒られるのは嫌なので、私だって順守してきたつもりだ。順守してきたからこそ、長く仕事が続けられてきたとも言える。一度は私の会社が軽いスポンサーになったこともあり、その時はその時で「その名の言い方や使い方のぶ厚いマニュアル」を渡され、あらゆる文章やキャッチコピーは厳しい事前チェックを潜り抜けなければいけなかったから、スポンサーはスポンサーで楽ではないなと感じたことを覚えている。

 

いずれにしろその祭典がある年は、私の周囲はいつもピリピリする。毎度送られてくる警告をいくら読んでも、だれがどうやって怒りにくるのか、具体的に明瞭に書かれてないところがまた、「お前らどうなるかわかってるだろうな」という言外の凄みを感じさせて、ピリピリに拍車をかけるのだ。人間を効果的に警告するコツが、こういうところにあるんだろうなと毎回考えるうちに、世間が金とか銀とか銅とかいう言葉で満たされ、熱狂や応援がビュンビュン過ぎて行く。

 

浦島がすぎる(karukoohino 著)

 

だから私にとってのそれは、いつしか腫れ物のようなお祭りになってしまった。決して触ってはならぬと言われれば言われるほどウズウズしてしまう人間の性と戦うような、みんなと一体になって素直に応援できないような、たのしいようなたのしくないような、なんともいえない時間である。

 

その感じは、このマンガの人ともちがう。いつのまにかはじまってるという事態に、私はなれない。もう次の祭典がはじまるのかという感慨は、今回に限っては多くの人に共通するものだとしても、会期中の心持ちはまったくちがうはずだ。私の、あの祭典中のあの感じは、だれとも共有できないものだと思っている。

さあ29日からは祭りの後半戦というか、新たな未到を競う祭典がはじまりますね。どちらかというと私は、こちらを固唾を飲んで見守ることにしています。

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