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コミチさんの作品:フーモア大勝利の理由は「アートディレクター」にあり!? ランキング上位連発を可能にした制作体制とは~ヒット作品のリバースエンジニアリング #漫画家 #編集者 フーモア:前編

 フーモアのスタジオ制作によるウェブトゥーンが絶好調だ。LINEマンガでは『喧嘩リベンジ 二度目の最強高校生』『魔王アプリでS級ハンターになれました』『異世界陰陽師と十二天将の式神』が男性ランキング1位、『2周目冒険者は隠しクラス〈重力使い〉で最強を目指す』『当て馬モブ令嬢が必死に瞬殺回避したら、気づけば全キャラ攻略してました!?』が総合ランキング1位、ピッコマでは『暴食のベルセルク~俺だけレベルという概念を突破して最強~』が青年カテゴリランキング1位(いずれも新連載時のタイミング)。

 同社は「売れるウェブトゥーン」の量産体制をいかにして築き上げたのか。『二周目冒険者は隠しクラス〈重力使い〉で最強を目指す』と『デモンズ・クレスト』を例に、同社の芝辻幹也代表、井本洋平ウェブトゥーン事業部長、アートディレクターの遠藤拓己氏にどんな制作をしているのかを訊いた。

 

(c)HykeComic/Straight Edge Inc.
(c) MICRO MAGAZINE, INC.

 

■アートディレクターの存在がフーモアの制作体制のキモ

 

――フーモアのウェブトゥーン参入経緯から教えてください。

 

芝辻  僕らは2010年頃からNAVER Webtoonなどをチェックしており、当初はヨコマンガをタテにする事業もやっていました。2014年にレジンコミックスが本格的に課金モデルを成功させた頃に韓国に赴いて勉強し始め、2020年には韓国企業から制作の相談をもらうようになりました。

 

はじめは線画、次に着色――ここで厳しいフィードバックをもらってどんなものが求められているのかを理解したことが今につながっています――、そしていただいていたネームを研究することでネームづくりもできるようになっていった。

 

そして従来から弊社で手がけていた広告マンガとゲームイラストの各事業部からメンバーを集め、2021年11月にウェブトゥーン事業部を立ち上げました。弊社では過去のオリジナルマンガやオリジナル原作を制作してきて、ゼロイチで自前で原作を作るのは難しいと断念をした歴史があります。ウェブトゥーンに参入する際に過去の経験から、自社でオリジナルを作るのではなくパートナー企業様から原作をいただき、ネームから線画、着色、エフェクトまでを担当しています。

 

 

――フーモアが考えるウェブトゥーン制作のゴール、「これが揃ったら読者が課金する」と思う要素は何でしょうか。

 

井本  立ち上げ当時の日本産ウェブトゥーンは個人作家さんが着彩までやるものがほとんどで、REDICEさんの『俺だけレベルアップな件』が登場したときには、スタジオ制作のクオリティにみんな度肝を抜かれたわけです。

 

『俺レベ』登場前後の時期の日本市場では「絵のクオリティがいいけど売れていない作品はある」ものの「絵のクオリティが高くなくて売れている作品はほとんどない」という状況でした。だから僕らとしては、まずあの絵のクオリティを目指そう、と。物語の内容としては、弊社が着手したタイミングで売れているジャンルはほぼ異世界転生(韓国で言う「次元移動」「回帰」もの)、悪役令嬢でした。

 

そこにユーザーがいて課金もしているのだから、僕らは「今いるお客さん」に喜んでもらえるようにストーリーも着色もフォーカスしようと決めて取り組んでいきました。その姿勢は現在も変わらず、僕らが大事にしているのは、作品公開初日に無料分をすべて読んでさらに先読み課金までしてくれた読者のコメントです。

 

――目指すクオリティを達成するための、現在の体制は?

 

井本  弊社の分業体制、制作フローについてはnoteにもアップしている画像を見てもらうと一目瞭然なのですが、1作品につき7~9人くらいの人が関わっており、雇用形態は主に社員ですが、業務委託契約やアルバイトの方にも関わってもらっています。ネーム1人、線画背景1人、線画人物は1人+アシスタント1人、着色・下塗り・本塗り・仕上げがそれぞれ1人、ディレクターが1人です。ディレクターはひとりで3作品くらいまで担当できますが、ほかのスタッフは基本的には1本にかかりっきりで回しています。

 

フーモア編集部noteより:
アートディレクターのお仕事について #1
アートディレクターのお仕事について #2

 

 弊社の制作体制のなかでも重要なのは、アートディレクターの存在です。「ディレクター」は全体の制作進行を管理する存在で、「アートディレクター」はそれとはまた別の存在です。日本では「マンガ編集者」とウェブトゥーンの「プロデューサー」の違いについてよく語られていますが、実は韓国のスタジオでは、その作品がクオリティに達しているかをチェックするアートディレクターがいるんですね。ゲームイラストでも一般的な仕事ですが、この存在の有無が大きいと思っており、弊社では今6人います。

 

(c)HykeComic/Straight Edge Inc.
左:着色初稿 右:フーモア調整後
主人公がラスボスに撃ち勝つ見せ場シーン。静と動を意識しつつ、より劇的に。

 

遠藤  韓国のスタジオでは絵に関する演出が重視されています。ウェブトゥーンは着色や線画はシンプルですが、そのコマでは誰がどういう状況にいて何をしているのかを構図や光の当て方などで演出することに凝っている。

 

僕らのアートディレクターチームで研究したのは映画やアニメの映像処理、とくにエフェクトの部分ですね。また、韓国発のヒットしたウェブトゥーンをリバースエンジニアリングして知見を蓄積してきました。

 

実際の作品をスクショして画像処理ソフトに取り込み「これは発光が何%乗っている」とか「使っているブラシはこれだろう」……等々と解析し、線画からエフェクトまでの工程を「こういう色の置き方をすれば同じトーンで再現できる」「週刊連載でこのクオリティを保つためにこういう簡略化をしている」といったかたちで整理して資料化し、スタッフに共有していきました。

 

このように、実際に絵を描いたことがある人にしかできないのがアートディレクターの仕事です。毎話の絵のクオリティの底上げだけでなく、ナレッジを溜めてマニュアルやガイドラインを作ることもしています。

 

■今の読者のニーズに向き合いつつ、企画開始から1年後のリリース時の状況も見据える

 

――HykeComicのランキングを見ると、フーモア作品に限らず、人気上位のアクションファンタジーのサムネイルは、ほぼ全部主人公の目が紫や赤に光るエフェクトが入っていますが、これは……?

 

井本  目が光っているものが今の読者からリッチに見られやすいからでしょうね。弊社でも目に限らず、アクションシーンのエフェクトはこれでもかと入れています。

 

(c)HykeComic/Straight Edge Inc.
フーモア制作4作品より 確かに目が光りがちかもしれない

 

――読者のニーズ、トレンドを汲んだものだと。

 

井本  そうですね。ウェブトゥーンはプロジェクトが始まってリリースするまで1年以上かかりますから、中長期的なトレンドに沿ったものを作ることと、リリースした頃に何がウケているかを見越したチャレンジをするという2点が重要になります。

 

前者ばかりだと流行の後追いになっていつか時代遅れになりかねないし、後者ばかりだと経営的に安定が見込めないため、うまく組み合わせていくことが必要なのかなと。

 

 弊社制作作品だと『二周目冒険者は隠しクラス〈重力使い〉で最強を目指す』の方は前者に振った「トレンドど真ん中」を狙った作品です。

・主人公が強い理由が第1話でしっかりわかる
・パワーでゴリ押しするのではなく知略を用い、敵を倒すことで主人公も強くなっていく
・ダンジョン攻略という身近な世界から『世界を救う』ところまで世界観を広げていく
・1話目で大喜利をやって(どんなネタなのかを見せて)、2,3話で爽快感を味わってもらって引きを作り、5話までにユーザーの心をガッチリつかむ

 ……等々の僕らが重要と考える要素をすべて詰め込んでいます。

 

井本  今でこそ、ヒットしているウェブトゥーンの特徴を言語化できるようになっていますが、本作の企画会議のタイミングでは言語化できていませんでした。素晴らしい原作者に出会え、アカツキさんとストレートエッジさんの尽力の賜物だと思っています。

 

遠藤  読者の反応を見ていると、手軽に強くなれる「理由」がしっかりしていることが重要なんですよね。

 

井本  加えて毎話の終わり方にもポイントがあります。ヨコ読みのマンガは各話がピンチのシーンで終わる印象がありますが、ウェブトゥーンは「逆転するぞ!」「ここで覚醒きた!」というタイミングで終わって「1週間待てない」と思ってもらったほうが、反応がいいんですよ。

 

――なるほど。面白いですね。『デモンズ・クレスト』の方はいかがですか?

 

井本  一方の『デモクレ』は、後者のチャレンジ作品ですね。着色や作画はトレンドに沿っていますが、ストーリーはウェブトゥーンの流行とは違います。

・小学生が主人公
・キャラクターが大人数で、転生もしない
・主人公の強さの理由付けも「転生したから」くらいのわかりやすさではない

 

ですから。ただ「知略で勝つ」という爽快感は残しています。これは「『デモクレ』がリリースされるころにはウェブトゥーンのユーザーが増えてトレンドも多様化しているかもしれない」「『ソードアート・オンライン』の川原礫先生原作ということでふだんウェブトゥーンを読まない人も新規で入ってきてくれるだろう」と読んで取り組んだ作品です。

 

(c)HykeComic/Straight Edge Inc.

 

――フーモアのHykeComic作品はクレジットを見るとHykeComic:プロデュース・ディレクション、フーモア:制作、ストレート・エッジ:原作・脚本となっていますが、どういうチェック体制で、誰がどこまで何を言うのでしょうか。

 

井本  アカツキさん(HykeComic)とストレート・エッジさんが原作を担当し、原作には原作の担当編集者がいて作家さんと作っていただいています。もちろん、弊社もシナリオに対しては意見を言ったり情報共有したりはしますが。

 

遠藤  いただいた各話の脚本に関して「見せ場のシーンをこう持っていきたい」とか「絵的に最後に『引き』を作りたい」といった作画側目線のお願いを出すこともあります。

 

井本  線画以降の工程はフーモアのアートディレクターがほぼほぼ最終ジャッジしています。各工程でアカツキさんのプロデューサーにも確認してもらいます。始まった当初は方向性に関して食い違いがあって意見を戦わせることもありましたが、今は目線が一致しています。

 

――『デモクレ』だと書き文字が迫力があり、フォントにもこだわりが感じられますが、あれは誰が決めているんですか?

 

井本  あれは弊社所属のネーム作家・柊こだちさんですね。やはりHykeComicで連載している『禁忌の転生大魔導士』もやってもらっている天才です。

 

遠藤  『デモクレ』はマンガ系の天才ネーム作家とコンセプトアートに強いアートディレクターの掛け合わせがものすごいクオリティを生んでいる作品ですね。

 

中央:井本氏、右:芝辻氏、左上リモート参加:遠藤氏

 

■シナリオに注文を出したときに受けてくれるところと組んでいる

 

――原作は自社ではなく外にお願いするとのことですが、その企画をやる/やらないの判断軸は?

 

井本  今は「トレンドに沿っているか」「弊社からのお願いを受けとめてくれるか」ですね。LINEマンガやピッコマに出すのであれば、そのプラットフォームにいるお客さんの存在を前提に、こちらでネームにするにあたってシナリオを多少修正してもいいかと最初に確認をし、OKならやるし、そうでないなら断っています。

 

だからもし仮に「『ポケットモンスター』をウェブトゥーンにしてください」という依頼をいただいたとしても「アニメ版のサトシのストーリーをそのままなぞってください」と言われたら断ります。ウェブトゥーンのトレンドには合っていないからです。……いや、やっちゃうかもしれないですが(笑)。でも『転生したらコイキングだった』くらい変えていいならやりたい、というのが正直なところです。

 

遠藤  コイキングはギャラドスになることが決まっていますから、「ざまぁ」もできますしね(笑)。

(前編終了ー後編に続く)

後編: ヒット連発のフーモアのスタッフは「今のウェブトゥーンが好き」な人たち~1話制作には7工程7週間

 

---プロフィール

芝辻幹也

株式会社フーモア 代表取締役CEO。東京工業大学・同大学院卒業後、2009 年アクセンチュア入社。大規模システムの PMO、大手小売業の BPRのプロジェクトに参画。その後、ルームシェアメンバーとシェアコトを創業しグルーポン系サイトを立ち上げる。

同事業譲渡後、トライバルメディアハウスに入社しソーシャルメディアマーケティングを学ぶ。2011 年 11 月株式会社フーモアを創業し同社代表に就任。

趣味は理論物理学 ( 最近は専ら超紐理論 ) イラスト・漫画作画。密かに漫画家を目指している。

 

 

井本洋平

長野県出身。1983年9月14日。 2016年フーモアのマンガ事業部のクリエイティブマネージャーとして入社、マンガ事業部を立ち上げる。

エンジニア・マーケターとしての経験を元に事業立ち上げを牽引し、 その後もゲームイラスト制作も含めたクリエイティブ部門のマネジメントなどを歴任。

2021年に執行役員に就任。現在はwebtoon事業部の部長を務める。

 

 

遠藤拓己

宮崎県出身。1995年2月26日。2012年、大学進学と同時に上京し、インターンとしてフーモアに入社。

ゲームイラスト事業部のディレクターを経て、アプリ事業の副部長として就任、アプリのイラスト制作と悪役令嬢系タイトルのシナリオディレクションを務める。

現在は、webtoon事業部のアートディレクターチームのリーダーへ就任。

 

 

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2023/3/22 コミチ オリジナル