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コミチさんの作品:クリエイターがウェブトゥーンをヒットさせるために必要なこと #小説家 #漫画家 フーム/ARC STUDIO JAPAN:後編

ウェブトゥーンインサイト日本版を運営する株式会社フームは、作家のイ・ドギョン氏とともにARC STUDIO JAPANとしてシナリオ分析とコンテ(ネーム)制作に特化した事業も手がけている。フーム代表の福井美行氏とARC STUDIO代表イ・ドギョン氏に、小説家がウェブトゥーン制作に参画した場合の注意点や新人作家に向けてのアドバイスを訊いた。(前中後編の後編)

前編: ヒットするウェブトゥーン作りに必要なものとは?
中編:
「日本マンガの長所を活かしたウェブトゥーン」は可能か?

■小説家がウェブトゥーンに参画する場合の注意点

――イ・ドギョンさんは小説家として本を刊行した経験もあり、ウェブトゥーンの脚色も手がけていますが、ウェブトゥーン制作に小説家がシナリオやコンテ担当者として参加した場合の注意点についてうかがいたいと思います。まず、新連載が始まる前には文字ベースではどのくらいの話数をあらかじめ用意していますか。

イ・ドギョン  作品ごとに違いますが、最低でも5~10話、多い場合は30話以上作っておきます。

 

イ・ドギョン氏 作品履歴

 

――ふだんひとりで作業している小説家が、集団作業の中でシナリオライターやコンテを描く作家として参加した場合に気を付けるべきことはなんでしょうか。

イ・ドギョン  単に原作者として関わるのであれば、別にウェブトゥーン化されることを前提に原作を書く必要すらなく、単純に小説として完成度が高いものを目指せばいいと思います。ウェブトゥーンとして演出する人間は、原作の小説家とは別にいる場合が大半です。ですから原作者は、ウェブトゥーンに適したアレンジがなされることを許容するオープンマインドを持つくらいでいいでしょう。

 原作者としてなのか、あるいはウェブトゥーンオリジナルのシナリオライターとしてなのかを問わず、作画家さんがうまく描けるように配慮することは必要です。制作前でも制作中でもかまいませんが、先々の展開を知っている原作者やシナリオライターは、作画家さんに「このシーンの演出はこういう意図をもっています」「このキャラは実はこんな人物です」と伝えるべきです。

原作小説が完結していれば先々までのストーリー展開を作画の先生がわかった上で伏線の演出が可能ですが、オリジナルシナリオの場合はそのあとどういう展開になるかがわからないため、なおさら「主人公の友人を黒幕にするつもりです」といった情報を知らせておく必要があります。そうしないと伏線が機能しなくなり、演出の整合性が取れなくなる可能性が生じます。

 それから小説家がウェブトゥーンのシナリオを担当した場合、あるいは原作小説をウェブトゥーンにする場合、キャラクターやイベントを刈り込み、本筋に集中させることを意識した方がいいでしょう。小説ではたくさんの人物を登場させられますが、ウェブトゥーンではキャラが多いと作画が大変になりますし、話の展開が遅くなります。原作小説やテキストで書いたシナリオは、ウェブトゥーンの元になるソースに過ぎません。それをどう組み立てるかが重要です。

 

――イ・ドギョンさんがやってしまった失敗体験から、話せることは何かありますか。

イ・ドギョン  ひとつの作品に多くのキャラクターを登場させた際、作家として愛着を持ったキャラクターが読者にも好まれているかは冷静に見た方がいいですね。自分はおもしろいだろうと思って特定キャラの分量を増やしたのに読者からウケが悪かったことがあり、反省しました。

 

――現実的に、ウェブトゥーンの連載が始まったあとに、読者の反応を見て展開を変えられるものなのでしょうか。

イ・ドギョン  連載開始後に販売推移と読者のコメントはもちろんチェックしますが、毎週更新だとすぐに次の締め切りが来ます。ですからすぐ次の回、次々回などに反映することは困難です。先々2、30話分の原稿をストックしておいて、長い目で見て今後の展開に反映することはできますが、本当に大きく話を変えたいなら連載を休載しないと難しい。ウェブ小説でもそうですが、連載初期からあまりにも反応がよくない場合は打ち切って新しい作品を書いた方がいいと思いますね。

 

■個人の新人作家へのアドバイス

――ここからは、個人で企画からシナリオ、作画、仕上げまで一人で行う日本のウェブトゥーンクリエイターに向けてお話いただければと思います。まず、ある物語の結末を作るときのコツは何でしょうか。

イ・ドギョン  結末は始まりと関係があります。スタート地点から、結末はどうなればいいのかの方向性は生まれています。その流れに乗って作品全体のテーマを包括できるかたちで演出していければ、良い結末ができます。

 

――ウェブトゥーン読者に無料の冒頭部分をクリックしたいと思わせるにはどうすればいいでしょうか。

イ・ドギョン  「インパクト」を与えながらも「感覚的」「感情的」な印象を読者に想起させることですね。

 

――見る人の感情を動かすのが重要ということですね。では、2話以降も読んでもらうには?

イ・ドギョン  当然ですが、読者が次の展開が気になり、期待する状態に持っていかなければなりません。ですから1話の終わりで話がまとまっていてはいけない。次の話が展開されている必要があります。これは「起承転結」ならぬ「承転結起」構造と呼ばれています。

 

――では無料部分の先を「課金してでも読みたい!」と思ってもらうには?

イ・ドギョン  一にも二にも、読者が主人公を応援したいと思う状態にしなければいけません。「早くこのキャラクターと歩みをともにしたい」という気持ちになれば、読者は課金します。

 

――作画に関してはどうでしょうか。

イ・ドギョン  1話に付き1つは読者の記憶に残る「スーパーカット」が必要です。1話あたりのカット数(コマ数)に関してはオーバーワークにならないように見極めることが大事ですが、最近では60カットが基本でしょうね。

 

『月光彫刻師』©아냐기나무 ,pallet,박태석/Toyou'sDream

 

――実績が何もない作家はどういうことから始めればいいでしょうか。

イ・ドギョン  韓国の場合は3つのルートがあります。

1.公募展(新人賞)に応募する
2.NAVERの「挑戦漫画」のような自由連載できる場所に投稿する
3.投稿プラットフォームやエージェンシーに持ち込みをする

 です。新人クリエイターはなんでもやってみる、チャレンジするという心構えが大事だと思います。新人だからこそ許されることもありますから。

 

福井  日本と韓国では環境が違いますよね。たとえば韓国の「挑戦漫画」だと誰でも投稿ができる「挑戦」、そこで人気になった人が集まる「ベスト挑戦」とクラス分けがされていて、だんだんプロになっていくという道筋が明確です。各種コンテストでも「入選したらこうなれる」というイメージが持てる。ところが日本ではTwitterやnoteに個人的に発表するものと、スタジオ制作の商業作品に二極化していて、中間段階が弱い。

 

――LINEマンガインディーズやcomicoのチャレンジのような投稿する場所はありますが、そこで人気が出たら世の中的にも注目されて稼げるようにもなる、みたいな感覚がマンガ家志望に一般的にある状態ではないですからね。

福井  韓国ではNAVERなどでちょっとしたショートストーリーのウェブトゥーンがバズることがよくあります。それ単体では商売にならないですが、話題になれば次につながるルートがある。日本では個人投稿の次のステップがないし、そもそも個人投稿に限らずタテマンガがバズることがほとんどない。

 

■日本人作家が海外プラットフォームに直接挑戦するという選択肢もある

――LINEマンガやピッコマはじめ、どこもシェア機能がダメですからね。ユーザーがシェアしてもそのURLを踏むとアプリのDLページか作品のトップページに飛ばされてしまって当該話数がブラウザで読めないので、誰もシェアしないし、シェアしても構造的にバズが不可能になっているからですね。

NAVER Webtoonやカカオページとは異なり、日本の「ウェブトゥーン」は「ウェブ」ではほとんど読めないのでシェアもできない。

 

福井  日本で新人作家と読者が集まってある程度自生的に育ってくれる場がないのは深刻な問題です。今のままだとウェブトゥーンを描く場所、読んで反応をもらえる場所が少なすぎて、コンテストをやっても「初めて描きました」みたいな人が多くなってしまい、なかなかうまく機能しません。

弊社でも日本でコンテストを開催して募集をしましたが、日本人からは数作品しか応募がなく、一方で特に告知をしていない韓国から50作くらい応募がありました。しかも韓国は半分プロと言っていいほど経験がある人が投稿してきていた。日本の投稿作品のクオリティとは雲泥の差がありました。

ここを業界的に変えていかないと、日本で制作したウェブトゥーンが次々ヒットするような未来はないでしょう。アカツキさんのHykecomicやDMMさんなど企業の大型参入はあるものの、新人を育てる場づくりはほとんどどこもやっていない。

 

イ・ドギョン  韓国の場合、どこに連載し、どういう成果を出したら人気が出たと言えるのか、あるいはヒットしたらどれくらいお金が儲かるのかが明確です。日本ではそれが明確ではない。しかし、先々の見通しを示すロードマップがなければ、多くの作家は参入していけません。

それならいっそ「韓国でプロとして連載する」と目標を決めて日本で作品を描いて「挑戦漫画」などに投稿してもいいかもしれません。日本語でウェブトゥーンを作ったあとで、papagoなどの翻訳サイトを使って文字の部分を入れ替えれば作れてしまうわけですから。

 

――たしかに、韓国版や英語版を作って日本から「挑戦漫画」や「WEBTOON CANVAS」に投稿してプロを目指す方が道筋が明確だし、うまくいった場合の成功も大きそうですね。

福井  もちろん、私もドギョン先生も日本でしっかりウェブトゥーン制作をやっていきたい、日本の作家を支援したいし、いっしょに組みたいと思っています。何かあればぜひ相談してください。

 

イ・ドギョン  最後に私から日本のウェブトゥーンクリエイターの皆さんにお伝えしたいことは「健康に気をつけてください」ということです。作業量が過多になって身体的に怪我をしたり精神的にバーンアウトして引退される作家が韓国では少なくありません。どうか、自分の作業量がサステナブルなものなのかを常にチェックしながら、創作に臨んでください。

 

<後編終了>
前編:
ヒットするウェブトゥーン作りに必要なものとは?
中編:
「日本マンガの長所を活かしたウェブトゥーン」は可能か?

李度京(イ・ドギョン)
2007~2014年  ㈱D&Cメディア
ラノベ ブランド「SEEDノベル」 編集長
2015年~  (株)インタイム
ラノベブランド「ARCノベル」及びWebtoon部門統括PD.
2020年~ ARC STUDIOを設立 
Webtoon『月光彫刻師』脚本、プロデュースなど

 

 

福井 美行(ふくい・よしゆき / Yoshiyuki Fukui)

株式会社フーム 代表取締役 兼 WebtoonInsightJapan.編集長
東京理科大学卒
1984年 中央宣興入社、1990年 I&S(現I&SBBDO)入社
東京ゲームショウ、CESAデベロッパーズカンファレンス立ち上げ等を行う。
2000年FOOM 設立
2008年韓国法人FOOM KOREA設立 韓国任天堂、月刊ヒーローズ韓国編集室等の業務を行う。
2015年 Webtoon Insight Japan開始。
2022年 Webtoonコンサル及び原作分析等を行うARC STUDIO JAPANを韓国ストーリー作家のイドギョン氏と共同で開始。
2022年 公益財団法人日本吟剣詩舞振興会 理事

 

 

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2023/2/10 コミチ オリジナル