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シャープさんさんの作品:振り出しにもどる

なんでもおそい、 @SHARP_JP です。いくら覚えの悪い私でも、何回か繰り返せばたいていのことはできるようになる。人より上手いか速いかは別にしても、たいていのことは人並みにできるようになる。そうやって私は幼い頃から、何回か繰り返すことでいろいろできるようになってきた。ただしその繰り返しにも、ひとつだけ条件がある。「さほど間をあけることなく」繰り返すということだ。

 

バカな私はすぐ振り出しに戻ってしまう。ちょっと間があくと、すぐに「あれなんだったっけ?」と真っ白な状態に戻るから、いつまでたっても繰り返しが成立しない。インターバルは短ければ短いほどよくて、振り出しに戻る隙を与えないのが習得のコツなのだろう。だから私にとって、嫌でも毎日やらなければいけないコトこそ、自分が習得できる数少ないスキルのうちで最短距離にある選択肢だったのだ。そうやって私は、料理とか一部の仕事を嫌々ながらできるようになってきた。

 

しかしとりわけ大人になるとやっかいなことがある。めったにやらないけど時々ぜったいにやらなければいけないことが、思いのほか人生や生活で増えていくものだ。急に必要になる住民票写しの取得方法を私はいつまでたっても覚えないし、引っ越しを繰り返す度に私は毎回はじめて上京するかのように手続きを検索する。私は年をとっても、真っ白なままの私がいたるところに存在している。

 

会社でも私はたびたび立ち尽くす。めったに出さない申請やめったに清算しない経費を前にして、私は「そんなことも知らないのか」という白い目に晒される。めったにしない印刷の余白や改ページに私はいつまでたっても悩まされるし、めったに使わない関数やショートカットはいつまでも私にとって便利にならない。会社や役所はルーティーンの集積地のような場所だけど、毎回振り出しに戻るくらいに息の長いヤツらが、いつも私を苦しめる。繰り返そうにもインターバルが長すぎて、毎回強制的に振り出しに戻されるルーティーンは、われわれの周りにけっこうあるのではないか。

 

怒りのほとんどは何のせい?(karukoohino 著)

 

一方で、ルーティーンはルーティーンであることを前提にするあまり、いつも初めての者にきびしい顔を見せる。だれもが経験する制度の繰り返しなんだから、みなまで語る必要もないだろうと、あまりにそっけない案内を前にして、あるいは案内そのものが見つからない状況を前にして、私のようなすぐ振り出しに戻る者にもう少しやさしくあってくれ、と叫びたくなる時がある。

 

それはつまり今だ。いま私は、確定申告に何度目かのまっさらな自分で向き合おうとしている。いつまでたっても確定申告に慣れない。毎回、一から四苦八苦する。私は振り出しを繰り返している。

 

おせち料理がいつまでたっても上達しないのはわれわれのせいではない。お正月が年1回しかないのが理由だ。同じくわれわれが確定申告に苦労するのは、それが年1回しかないからではないか。いつにもましてそんな理不尽な主張をしたくなるのは、納税をめぐるあまりにグロテスクな政治家の主張を、いつにもましてニュースで目にするからかもしれない。

 

とはいえ義務は義務。私もあなたもグッと腹に力をこめて、私たちは私たちのために国民の義務を果たしましょう。

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