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コミチさんの作品:ヒットするウェブトゥーン作りに必要なものとは? フーム/ARC STUDIO JAPAN:前編

ニュースやオピニオンを発信するウェブトゥーンインサイト日本版を運営する株式会社フームは、シナリオ分析とコンテ(ネーム)制作に特化したARC STUDIO JAPANとして制作事業も手がけている。ARC STUDIOの中心人物は、「ウェブ小説原作でスタジオ制作したウェブトゥーン」(novelcomics)として大ヒットし、フォロワーを無数に生んだ『月光彫刻師』のネームを手がけた作家のイ・ドギョン氏。フーム代表の福井美行氏とARC STUDIO代表イ・ドギョン氏に、ARC STUDIO JAPANの狙いと『月光彫刻師』から学んだことについて訊いた。(前中後編の前編)

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■韓国で培われた原作分析、コンテ制作ノウハウを日本に蓄積する

――まず、ARC STUDIO JAPAN自体について教えてください。

福井  有力な原作がないと、ウェブトゥーンは制作してもなかなか人気が出ません。特に、個人制作ではなく、スタジオで100話規模の長編を作るとなると厳しいわけです。

日本でも小説家になろうやアルファポリスなどに投稿されるウェブ小説には人気がありますが、韓国のウェブ小説と比べるとウェブトゥーン向きのものが少ない。あるいは原作があったとしても、それをどうすればウェブトゥーンとしてふさわしいものになるかというノウハウが日本にない。

そこをサポートするべく、イ・ドギョン先生にお願いして設立したのがARC STUDIO JAPANです。

©아냐기나무 ,pallet,박태석/Toyou'sDream
©Nam Hee Sung/Lee Dokyung,Park Jung Yeol

 

今の日本には韓国のように原作分析をして会議しながら作っていくしくみがまだ根付いていません。だいたいどこでも日本のマンガやライトノベルの編集のやり方でウェブトゥーンを作っている。

それが悪いとは言いませんが、これまで何年もウェブトゥーンを見て作ってきた韓国側とはスタートラインが違う。そこで、日本と韓国の共同作業でドギョンさんをはじめとするシナリオ(原作)分析やコンテ(ネーム)制作のスペシャリストのノウハウを日本に輸入しよう、と。

 

――なるほど。

福井  ただ結果的には、今は日本の作品を原作にしていても韓国で韓国の作家と制作をし、日韓のプラットフォーム向けに配信しています。日韓両方にスタッフが散らばって共同制作するのはコミュニケーションコストがかかりすぎ、また、制作環境があまりに違いすぎるためです。

たとえば『どろろ』のウェブトゥーン版『どろろ Re:Verse』(原作提供・監修:手塚プロダクション、企画・制作・流通:コピンコミュニケーションズ、メディアドゥ)は原作をよく知るドギョン先生の脚色で制作し、日本ではピッコマ、韓国ではカカオページで同時配信を開始しましたが、弊社ではそういうパターンで当面は作っていきたい。

ほかにも弊社では『ゴルゴ13』など日本発の著名IPウェブトゥーンを手がけていますが、これはキャラクターが優れていると同時に、もともと海外でも知名度があるのでグローバル配信や映像化を見越したときにプロモーション上のメリットがあるからです。

 

イ・ドギョン  韓国ではウェブ小説、ウェブトゥーン原作のドラマがたくさんあってかなり人気がありますが、日本には有名な原作がいくらでもありますから、ウェブトゥーンとドラマやアニメとの連動によって世界的なヒット作を作れるといいなと思っています。

 

福井  メガヒットIP原作以外にも、弊社ではドギョン先生たちになろう系の原作を分析してもらって制作しているものもあります。

 

イ・ドギョン  たとえば原作を韓国人が書き、ネームや作画、着彩も韓国人がやって連載の配信だけ日本のプラットフォームでやっていたら「韓国のウェブトゥーン」とみなされると思います。しかし、なろう系の原作で、作画も日本人、ただ脚色だけは韓国人が担当していたら「日本のウェブトゥーン」ではないでしょうか。

いずれにしても私たちのノウハウを伝播して日本側にノウハウや試行錯誤を蓄積し、ウェブトゥーン制作の土台を作るお手伝いができればと考えています。

 

■マンガのやり方を引きずると、ウェブトゥーンへの適応に時間がかかってしまう

――ARC STUDIOが制作工程でもっとも重要視している点は何ですか。

イ・ドギョン  ウェブトゥーン制作においてはストーリー、コンテ、作画……重要でないことは何ひとつありません。しかし、すべてに力を入れすぎてバーンアウトし、健康を害するクリエイターも少なくありません。

過度の負担を避けつつ一定以上のクオリティを出す補助するためには、制作プロセスを整理し、マニュアル化することが私は重要だと思います。まだまだウェブトゥーン制作会社ではマニュアルがないところが多いです。弊社にはそれがあるところが強みのひとつだと思っています。

 

――マニュアルはクオリティを一定に保つためには機能しますが、爆発的なヒットを作るためには役に立たないのでは? とくに企画・原作に関しては。

イ・ドギョン  そうですね。企画の根幹に関わる部分のマニュアルではなく、私が言っているのは週1、2回締め切りが来るウェブトゥーンを一定のクオリティを保ちながら納品していくために、制作進行に際して漏れがないようチェックするマニュアルです。

ウェブトゥーン制作は作業量が膨大です。そんななか、どのようなウェブトゥーンを作るのか、誰がどの工程をどうチェックするのか、どこを補完し合えばいいかの監督までクリエイターに委ねると、大きな負担になります。編集者(PD)、特に新人編集者に渡してチェックポイントを教えられるものが必要です。

 

――イ・ドギョンさんが以前勤めていたD&C MEDIAやintimeのような韓国のウェブ小説やウェブトゥーン企業と比較すると、日本のウェブトゥーン制作会社の課題は何だと考えていますか

イ・ドギョン  韓国の会社は先にウェブトゥーン制作を始めたのでその分のノウハウがあります。また、韓国は雑誌や単行本市場がレンタル店市場によって衰退していたため、既存の紙マンガのノウハウをすべて捨ててでもウェブトゥーンにオールインせざるを得ませんでしたし、それができた。

一方で日本は既存のマンガのノウハウをすべて捨てて新しく始めることはできない。そのことが無条件に悪いわけではありませんが、マンガのやり方を引きずってしまうがゆえに、ウェブトゥーンのノウハウ獲得のためには時間がまだまだかかると思います。

 具体的に日本のクリエイターに足りない点を大きく言えば、デジタル制作方式に対する慣れです。三点ありますが、第一に、まだ縦スクロール演出の概念に慣れていない。スクロール配置はページマンガのカット(コマ)を縦に分解したものではなく、映像演出に近い。2Dで具現化するアニメーションのようなものです。

 第二に、彩色方式への適応です。 白黒マンガの作家が描くカラーページのように「ペン線(輪郭線)があり、その上で彩色をする」のではなく「彩色を前提にした、着彩のためのペン線を描く」必要があります。これはイラストで求められるものとも違います。

 第三に、数多くの人たちが自分の作業したものを次々に渡して最終的に原稿を作る、ゲームや映画に近い制作形態(「コンテナ式」と呼ばれています)に対する経験不足です。集団作業の中で各自がどんなポジションを受け持つのか、誰がディレクターを引き受け、どのように導いていくのか。そのシステム構築と実際のオペレーションを積み重ねていく必要があると思っています。

 

■ウェブトゥーン史上に残る『月光彫刻師』から得たもの

――『月光彫刻師』はウェブ小説(正確には最初は貸本発ですが)原作のウェブトゥーンとして大ヒット作となり、現在につながる、ウェブ小説原作でスタジオ制作したブロックバスター型のウェブトゥーンの流れを生み出すきっかけのひとつとなりました。

イ・ドギョンさんはウェブトゥーン版のネームを担当されていますが、『月光彫刻師』の経験から得た、ウェブトゥーン成功に必要な要素、制作において重要な点は何ですか。

イ・ドギョン  第一に、ウェブ小説原作のウェブトゥーン化(いわゆるNovelcomics)においては、原作の面白さを最大限生かしながら強化させることが重要です。第二に、原作を知らない読者が読んでもウェブトゥーン作品単体でも面白いと感じてもらうために多くの工夫をしなければならない、ということです。

 

『月光彫刻師』©Nam Hee Sung/Lee Dokyung,Park Jung Yeol

 

――当時と現在でウェブトゥーンに求められるものが変わった点は?

イ・ドギョン  『月光彫刻師』を制作していたのは、まだNovelcomicsが始まったばかりの時期でした。参考になるデータがなかったので、たくさん試行錯誤しました。その結果、今では読者が好む演出方式――1話にあまり多くの情報を一話で詰め込まずに目を楽しませること、設定の説明や叙事(語り)よりもキャラクターを強調することなど――のノウハウが蓄積されています。

 また、今は当時よりも作品が非常に増えましたから、その中で読者の目を惹く差別化ポイントを必ず持っていることが必要になりました。(中編に続く)

 

中編: 「日本マンガの長所を活かしたウェブトゥーン」は可能か?

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李度京(イ・ドギョン) さん プロフィール

2007~2014年 ㈱D&Cメディア ラノベ ブランド「SEEDノベル」 編集長
2015年~  (株)インタイム ラノベブランド「ARCノベル」及びWebtoon部門統括PD.
2020年~ ARC STUDIOを設立 同代表

【小説】
2002年 武俠ファンタジー 小説 『蒼天太武傳』出版
2003年 ファンタジー 小説『(魔劍)』 出版
2005年 武俠ファンタジー 小説『氷玉劍后』 出版
2006年 ファンタジー 小説 『聖劍』 出版
2009年 ファンタジー 小説 『マグナ・カルタⅡ–夢見る者達のレクイエム』 出版
2012年 ファンタジー 小説 『<Dungeon & Fighter>-アラドの鬼剣士』出版

【脚本】
2015年 Webtoon 『月光彫刻師』ネーム
2015年 Webtoon 『月光彫刻師 デフォルメ』ネーム
2018年 Webtoon 『俺だけログイン デフォルメ』ネーム
2018年 Webtoon 『魔弾の射手 デフォルメ』 ネーム
2018年 Webtoon 『本食いの魔法使い デフォルメ』 ネーム
2019年 Webtoon 『君臨天下 デフォルメ』 ネーム

【プロデュース】
COMIC 「僕と虎様」
COMIC 「EFSエクス・マキナ」
COMIC 「僕と彼女と彼女と彼女の健全ならざる関係」
Webtoon 「月光彫刻師」
Webtoon 「月光彫刻師 デフォルメ」
Webtoon 「神のゲームの神」

福井 美行(ふくい・よしゆき)さん プロフィール

株式会社フーム 代表取締役 兼 WebtoonInsightJapan.編集長

東京理科大学卒
1984年 中央宣興入社、1990年 I&S(現I&SBBDO)入社
東京ゲームショウ、CESAデベロッパーズカンファレンス立ち上げ等を行う。
2000年FOOM 設立
2008年韓国法人FOOM KOREA設立 韓国任天堂、月刊ヒーローズ韓国編集室等の業務を行う。
2015年 Webtoon Insight Japan開始。
2022年 Webtoonコンサル及び原作分析等を行うARC STUDIO JAPANを韓国ストーリー作家のイドギョン氏と共同で開始。
2022年 公益財団法人日本吟剣詩舞振興会 理事

 

 

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2023/1/27 コミチ オリジナル