

どちらかというと収集癖あり、@SHARP_JP です。Tシャツが好きだ。古着でも新品でも、昔から気に入ったのは手に入れてきたから、いまや私が所持するTシャツはひと夏の日数よりも多い。「一度にひとつしか着られない」のが、好きな衣服をまとう行為につきまとう悲しみである。夏が来るたびに、私は日替わりで好きなTシャツを着たとしても、とうていぜんぶに袖を通すことはできないのだ。
ましてや大人になるにつれて襟のある服が推奨され、Tシャツが封じられる機会は増えていく。死ぬまでにあと何回食事できるかは、晩年の毎日を大切に過ごすために推奨される心がけだが、あと何回Tシャツが着られるかというのも、案外人間の残り時間を意識する指標になりえるかもしれない。
加えてステイホームな昨今である。外出自体が極端に減り、人に見られることを前提にしたファッションはその存在意義から問われている。たしかに家で好きなTシャツを着ても「それいいね」と思うのは私ばかりだ。着るけど。
なぜそんなにTシャツが好きなのか。それは自分の「好き」を発信できるからである。そもそも全身のトーン&マナーを演出するのがファッションの真髄なら、Tシャツは少々邪魔な存在であろう。Tシャツは時に主張が激しすぎる。また腕時計やアクセサリー、あるいは希少なスニーカーといった、他者との差別化や財力の誇示といった点でも、Tシャツはさほど機能しない。まずもってTシャツは高価なものではない。
その代わりTシャツは「私がどういう人間か」を発信することに長けている。私の所持するTシャツは、そのほとんどが好きな音楽、好きな映画、好きな小説に関するものだ。いわゆるバンドTと呼ばれるもの、好きな作品からの引用でデザインされたもので占められる。ぜんぶを並べたら、私の私である部分を相当表すことができるだろう。
たぶんTシャツはファッションにおける記号性より、もう少しメディアなのだ。自分の価値観や意見を自らの上半身を媒体にして、間接的に発信する。そして自分の好きを受信してくれる人を探しに、人と会い、街を闊歩する。Tシャツの楽しさはそこにあると思う。つまりTシャツは、どこかSNSに似ている。
Tシャツを着る権利/27才ギリギリ会社員の日々ご機嫌マンガ
(masondixon402 著)
だから狭量なことを言うけれど、Tシャツになにが書かれているかは絶対に把握していなければいけない、と思うのである。そうでなければ「そのTシャツを着る資格がない」とさえ思う人間だ。「いちいちうるせえな」というお声もわかる。私もTシャツなんて流行でシルエットも変わるし、その時々の「ダサくない」をキープする最もかんたんなツールでいいという考えが過ぎることもある。
だけどもしあなたが「私と似た人とつながりたい」と希求するなら、自分の好きを発信することを厭わないはずだ。そしてそのための手段として、SNSと同じく、Tシャツというメディアは、なかなかバカにできないと思うのである。
あなたの好きを、あらゆる手段で受信する人はきっといる。それをわかっているからこそ、このマンガの作者もSFの名作をモチーフにしたTシャツをそっと棚に戻したのだろう。逆に言えばTシャツは、それを選び着る人をわりと無防備に発信してしまう。ポケモンのTシャツを着ていれば絶対にポケモンマスターだと思われるし、ゾンビのTシャツを着ていればゾンビ映画に造詣が深いと思われても仕方ない。メタリカのTシャツを見れば、それがどんな人であれ、ヘヴィなロックが好きにちがいないのだ。
Tシャツは油断ならないファッションアイテムなのである。

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