

この連載では、『宇宙兄弟』や『ドラゴン桜』などの編集者であるコルク代表・佐渡島庸平が、『コミチ』に投稿しているマンガ家の中から気になる存在を毎回紹介します。
出来事と感情は一致しない
今回は、モヤモヤした感情を丁寧にときほぐす、ヤチナツさんを紹介。
まずはヤチナツさんの作品『娘たちは卒業します 最終話』を見て欲しい。
僕はこの作品をすごく素敵だと思う。
それは出来事と感情を紐付けせず、キャラクターを中心に感情を描いているからだ。
親しい人の死は悲しい出来事だ。だから、キャラクターも悲しんでいるはず、と多くの人が大雑把に決めてかかってしまう。
ヤチナツさんは、先生の死を紋切り型の悲しいこととして描いていない。そこに生じる複雑に入り混じった感情を丁寧に観察し、描いている。部長のやちが唐突な訃報に現実感を持てず、ふわふわした気持ちのまま弔辞の原稿に向かっている様子などすごくいい。
また、やち以外の美術部員もキャラが立っていることも作品の魅力を押し上げている。
各部員の立ちふるまいやセリフを丁寧に描き分けているため、美術部の空気感がどんなものであったかより鮮明に体感でき、作品に没入できるのだ。
何話から読んでも楽しめる
SNS経由でマンガが多くの人に届く今、何話から読んでも楽しめることが重要になっている。『100日後に死ぬワニ』が社会現象になった一つの要因は、誰でも気になったその日から読むことができたことも大きい。
今回、『娘たちは卒業します 最終話』をあえて掲載した。一つの作品として成立しているからだ。
最終話から読むと先生は全く登場しない。しかし、そのことが先生の人物像への想像をかき立て、物語に奥行きを生んでいる。
僕はこれからヤチナツさんに、SNSに短いスパンで作品を投稿することにどんどん挑戦してほしい。その中から世間の反応がよかったものを描き直すことを繰り返し行うことで、さらに素晴らしい作品を生み出すに違いないと期待している。
▼ヤチナツさんのマンガはコチラ
<編集協力:平井 海太郎>

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