

理解はいつも遅れてやってくるのです、 @SHARP_JP です。以前どこかで書いたかもしれないけど、私は動物が脱走したというニュースへ、必要以上に心の昂りを覚える。猛獣あるいは毒をもった生物が檻を飛び出した危険性にドキドキするというよりかは、いるはずのない動物がいるかもしれないという状況にドキドキする傾向にあるようだ。自分のことなのに「あるようだ」と述べるのも変だとは思うが、自分でもこの昂りの理由をうまく説明できないので仕方がない。
動物園から動物が脱走したというニュースはまれに報じられる。山の動物が人里に降りてきたニュースはわりとひんぱんに耳にする。災害時にライオンが逃げ出したというデマも近年よく知られるようになった。その背景にはさまざまな問題があるのだろうし、実際に被害も起こったりするので、手放しでおもしろがるようなものではもちろんない。そこは承知している。
いるはずのない動物がいる、あるいはいるかもしれないというニュースはなにも脱走に限らない。河口にひょっこり現れたアザラシなどは、みんなうっすら覚えていると思う。大阪の川に16メートルもある巨大なマッコウクジラが迷い込み、そのまま死んでしまったことを記憶している人も多いだろう。新幹線の車内でヘビが逃げ出したというニュースもあった。いま書きながら、新幹線でヘビが逃げ出すという小説があったことを思い出した。もしかしてこのニュースから着想されたのだろうか。
いずれにしろ私は、そういうニュースを強烈に覚えている。なぜだかわからないけど、よく覚えている。その覚え方も、動物がいるはずのない場所にいる光景として、私がねつ造したかたちで焼き付いているから、私はつくづく、いるはずのない場所にいる動物に心を動かされるのだろう。そこまで考えると、どうやら私は、あるはずのないモノがあるはずのない場所にある光景を、あるいはそれとは真逆な、あるはずのモノがあるはずの場所にないという光景を、美しいと思うのだなとわかってくるのだが、その先はいまだによくわからない。
理解できないけど理解してくれた夫。(たぬ£ 著)
理由はよくわからないけどなぜか心が昂るモノゴトがある。多くの場合、そんな人間は私だけかもしれないと心配するあまり、とりたてて口外することはない。そうやって動機や理由が謎のまま好み続けるという、得体の知れなさを抱える人はたくさんいるはずだ。
まるで人間は心に闇を秘めているのだと深刻そうに言ってしまったが、このマンガのように「他人にとってはあまりにしょうもない、けど私にとっては一大事な事物」はたくさんあるのではないか。そしてそんな他愛がなくて大事なモノを理解してくれる人がいる喜びもまた、このマンガで描かれているとおりだ。
私も本人がおどろくほどの耳垢が取れたら見せて欲しいし、私も見せたい。なぜだかわからないけど、私は巨大な耳垢で心が昂る確信がある。

もっと作品を描いてもらえるよう作者を応援しよう!